COLUMN/INTERVIEW

【連載】スタンダード名曲ものがたり 第10回 ミスティ


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第10回】
ミスティ
Misty
作曲:エロール・ガーナー
作詞:ジョニー・バーク
1954年


俳優で映画監督のクリント・イーストウッドが、熱烈なジャズ・ファンであるのは有名な話。みずから監督したチャーリー・パーカーの伝記映画『バード』はそのもっとも顕著な例ですが、彼は自分の作品の中でも頻繁にジャズ・ネタを仕込んでいます。

初の監督・主演作品となった「恐怖のメロディ」もそんな1つ。イーストウッドが扮するのはラジオの人気DJなのですが、彼の番組に1人の女性から“ある曲”をかけてほしいという電話が毎夜かかってくるようになります。興味を持った主人公は彼女を捜し出し、成り行きで一夜を共にしますが、実はその女性、今でいうストーカーで、執拗に彼につきまとうようになり、ついにその行為は殺人事件にまで及んでしまいます。

で、その“ある曲”というのが、今回ご紹介する〈ミスティ〉(映画の原題は「Play Misty For Me」)です。作曲したのはプレ・モダン期のピアノ・ジャイアント、エロール・ガーナー。ガーナーは、「ビハインド・ザ・ビート」と呼ばれる豪快にスウィングするスタイルが有名ですが、一方でこんな美しいバラードも書ける叙情的なメロディストでもあったのです。

〈ミスティ〉誕生の由来についてはいくつかの説がありますが、もっとも知られているのは、飛行機に搭乗中、窓の外に広がる霧を見ているうちにメロディが頭に浮かんだ、というものでしょう。それがあまりに良いメロディなので、以前どこかできいた曲を無意識にパクっているのではないかと、彼はずっと心配していたという話も残っています。ただし、この曲が広く知られるようになったのは、1959年にジョニー・バークが歌詞をつけ、それをジョニー・マティスが歌って以降のこと。その後は、インストよりもヴォーカルでの名唱が多く残ることになります。

ちなみに、「恐怖のメロディ」の劇中に挿入される〈ミスティ〉はガーナーのオリジナル演奏ですが、エンド・クレジットの時のそれはストリングス入りでキーも違います。なんとこれ、映画のためにわざわざガーナーを呼んで別録りしてもらったのだとか。こんなところにもイーストウッドのジャズ・マニアぶりが垣間見られますね。


●この名演をチェック!

エロール・ガーナー
アルバム『ミスティ』(Mercury)収録


何はなくとも、作曲者自身のオリジナル録音ははずせないでしょう。リリカルでありながら、途中ちょっとした芝居っ気も盛り込んでみせるあたりは、まさにガーナーならでは。この曲の演奏モデルともいうべき歴史的名演です。



ジューン・クリスティ
アルバム『ジ・インティメイト・ミス・クリスティー』(Capitol)収録



ジョニー・マティスやサラ・ヴォーン、クリス・コナーなど名唱が少なくないこの曲ですが、ここではジューン・クリスティを。アル・ヴィオラのギター1本をバックに歌われるそれは、文字通り親密な情感に溢れています。