COLUMN/INTERVIEW

【連載】Sampling BLUE NOTE 第10回 Bobbi Humphrey / Harlem River Drive


“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


【第10回】
Bobbi Humphrey / Harlem River Drive
ボビー・ハンフリー / ハーレム・リヴァー・ドライヴ
AL『ブラックス・アンド・ブルース』収録



◆サンプリング例
Common / Just In The Nick Of Rhyme


ジャズと結びつきの強いヒップホップ・アーティストのひとりに俳優としても活動するラッパーのコモンが挙げられる。近年ではロバート・グラスパーとカリーム・リギンズと組んだオーガスト・グリーンでの活動があったが、ほかにも自身のアルバムの中でロイ・ハーグローヴやデリック・ホッジたちと共演している。彼とジャズ・ミュージシャンたちを繋いだのはトラックメイカー/プロデューサーのJ・ディラであったが、もともとコモン自身の作品にもジャズをネタにしていた曲が多く、ジャズへの関心が深かったようだ。まだコモン・センスと名乗っていたデビュー・アルバム『Can I Borrow A Dollar?』(1992年)ではソニー・スティット、ファンク・インク、ウォーなどに混じって、女流フルート奏者のボビー・ハンフリーの曲をサンプリングしている。トラック制作は複数のプロデューサーが行っているのだが、偶然にもボビー・ハンフリーはお気に入りのアーティストだったのか、「Just In The Nick Of Rhyme」という曲ではハンフリーの「Harlem River Drive」から、「Puppy Chow」という曲では同じくハンフリーの「Smiling Faces Sometimes」からサンプリングされている。それらのお返しという意味もあるのかもしれないが、コモンの『Elec-Sick Circus』(2002年)というアルバムには今度はハンフリーがゲスト参加している。

ボビー・ハンフリーの曲もサンプリングされる頻度は高いのだが、特にラリー&フォンスのマイゼル兄弟によるスカイ・ハイ・プロダクションズが制作した時期の楽曲が多い。「Harlem River Drive」はその代表で『Blacks And Blues』(1974年)に収録される。彼女自身がドナルド・バードの『Black Byrd』(1973年)を聴いて感銘を受け、その制作を行ったマイゼル兄弟に自身のアルバムのプロデュースをお願いする。そして、このハンフリー=スカイ・ハイ体制によって『Blacks And Blues』、『Satin Doll』(1974年)、『Fancy Dancer』(1975年)と3枚のアルバムが制作された。『Blacks And Blues』はハンフリーの最高傑作の一枚に数えられると同時に、マイゼル兄弟の関わった作品の中で最高峰にも位置するアルバムである。<ブルーノート>が拠点をロサンゼルスに移していた時期の作品で、ハーヴィー・メイソン、チャック・レイニー、デヴィッド・T・ウォーカー、ジェリー・ピーターズら西海岸のトップ・セッション・ミュージシャンが脇を固める。

Bobbi Humphrey / Harlem River Drive


アルバムのトピックとしてハンフリーはフルート演奏のみならず、「Just A Love Child」と「Baby’s Gone」で初めてヴォーカルも披露していることがある。可憐なその歌声に魅了される人も多く、後にシンガーとしても開眼するハンフリーの原点と言えるアルバムだ。ハンフリー以外にコーラスをフィチャーした曲が多いのもスカイ・ハイ・プロダクションズの特徴で、「Harlem River Drive」はマイゼル兄弟も含めた男性コーラスが哀愁に満ちた歌声を響かせる。ハンフリーのフルートは軽やかだがエモーションに満ちた演奏で、曲調とも相まってまるで口笛を吹いているかのような雰囲気である。ピーターズのエレピをはじめ次第に熱やグルーヴを帯びていくバックの演奏も素晴らしい。この「Harlem River Drive」をサンプリングしたのはコモン以外にスミフ&ウェッソン、DJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンス、フレディ・ギブス、ヤングMCなどからムーディーマン、ラス・Gまでいる。そうした中、コモンの「Just In The Nick Of Rhyme」では原曲のイントロ部分の車のエンジン音までサンプリングしていて、それがヒップホップならではのストリート感を表現するのに一役買っていると言えるだろう。

Common / Just In The Nick Of Rhyme


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