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【インタビュー】カンデ・イ・パウロが語る、彼らのこれまでとこれから (後編)


2017年のYouTube動画が1,200万再生を超え世界中で話題となったキーボードのパウロ・カリッソとコントラバス/ヴォーカルのカンデ・ブアッソによるアルゼンチンのデュオ、カンデ・イ・パウロ。ビリー・アイリッシュを思わせる囁くようなカンデの歌声と、繊細かつ美しいオーガニックなサウンドで急速に支持を集めている。名門デッカ・レコードから待望のデビュー・アルバムをリリースした彼らの音楽には、シンプルでセンチメンタルな響きの中にもある種の優しさを内包した独特の魅力があるが、一体それはどこから来ているのか。まだまだ謎めいた部分も多い彼らだが、今回は自身の口でこれまでの活動や今後の展望についてたっぷりと語ってもらった。本稿では後編として、母国の音楽や母国語での音楽を演奏することの意味や、先日SNSでも話題となった梶芽衣子とのコラボレーションなどについて聞いていく。

◆ ◆ ◆

■アルバムの1曲目はレナード・コーエンの”Treaty”でした。レナード・コーエンと言えば”Hallelujah”をカヴァーするアーティストが非常に多い中で意外ともいえるチョイスでしたが、この曲を選んだ理由やエピソードなどがあれば教えていただけますか?

パウロ・カリッソ (以下P):ラリーはレナード・コーエンと仲良かったんだけど、あの曲はレナードにとっても特別な曲だったらしいんだ。それをラリーは、僕たちのコンセプトとスタイルでやりたいって思ったんだよね。あんな独特の歌い方、歌いまわしをする彼のあの曲をカヴァーするなんてクレイジーだよね。アルバムのプレ・プロダクションはサン・ファンの家で友だちと3人でやったんだけど、ラリーが好きそうなもの、そしてレナード・コーエンにも気に入ってもらえそうなものに仕上げた。アメリカに行ってパーカッションとギターを加えて、曲のあの独特のフォーマットを固めた。リズム感もちょっと違うよね。

(「トリーティ」。NPR Musicの”27 Favorite Songs of 2021”で2位に選出された)

■“Tuyo”は楽曲の新たな魅力が引き出されている素晴らしいサウンドでした。作者のRodrigo Amaranteはラテンアメリカのミュージシャンの中でも現在最も影響力のあるアーティストの1人だと思いますが、あなた達にとって彼はどの様な存在ですか?

P:正直言うと、僕たちは前から聴いていた訳じゃなくて、数年前に初めて聴いたんだ。彼のバンドのLos Hermanosだったかな。この曲をやろうとなった時、NETFLIXのシリーズを見ていなくて、のめり込みそうだからあえて見ない様にしたんだ。彼はとても多才で色々な言語で歌うし、曲の作りが素晴らしいんだよね。あの曲はシンプルでありながらも、無駄がなくて素晴らしい曲。だから、そこに何かを加えると言うよりは、異なる次元にもっていこうって思って、もっとアンビエントっぽい感じとメキシコ、ロサンゼルスっぽい雰囲気を与えた。あの曲を違った形で仕上げる事は本当に難しかった。で、曲が完成してからシリーズを見たんだけど、ずっと見たくて、見たくて仕方なくて(笑)

カンデ・ブアッソ (以下C):ものすごく気に入ったわ!

(「トゥージョ」ミュージック・ビデオ。彼らの故郷・活動拠点であるサン・ファンで撮影された)

■“Barro Tal Vez”や”Preguntan de donde Soy”など、母国のヒーローとも言えるアーティストの曲をピックアップしています。特に”Barro Tal Vez”はあなた達の音楽を世界に広めるきっかけともなった重要な1曲です。これら故郷のアーティストによる音楽は、あなた達にとってどの様な意味を持つものですか?

C:ものすごい責任を感じる。

P:まさにそれ。責任って言うか、曲そのものだけじゃなくて、その曲の軌跡もあるからね。アタワルパ・ユパンキなんか大詩人だったし、軍事政権にかなり追われていたから。僕たちは子供だったけど、親の世代にとってはとても怖くて辛い時代だった。彼や他のミュージシャンたちはそれに動じる事なく、未来が見えない中で人々に希望のメッセージを伝えようとした。それにアタワルパは過去と未来を繋げてもいる。先住民族の村で起こった事、虐殺、資本の独占…ラテンアメリカ諸国って言うのは歴史的にその視点から罪を負ってきている。彼はその過去と未来への希望をつなげているわけだけど、”Preguntan de Dónde Soy”はそれをコンパクトにまとめている曲だ。

(アタワルパ・ユパンキ / プレグンタン・デ・ドンデ・ソイ)

C:それに伝統音楽も変えていったの。

P:そう、彼はそれまでの伝統音楽を変えていった。聴くと伝統的だな、って思うけど実はかなり違う。”Preguntan de Dónde Soy”は自分の国にいながらも自分の文化を失っていく事を描いている。自分の元々の居場所に他の人が入ってきて、そこにあったもの透明なものにしてしまって、存在しなかったものにしてしまうことがある事をね。スピネッタは、育っていく中で聴いてきたものだから僕たちにとっては、まるで知り合いの様な人。アタワルパよりも若かった彼の世代は失踪する人が多かったけど、曲に暗号の様にして色々な意味を込めて歌ってうまくやった彼は、その暗黒の時代を乗り越える事ができたんだ。その頃、英語のロックが禁止さていたから、ビートルズとか、北から入ってくるものが全部失われた。その中で彼の様なミュージシャンの多くは勇気をもって進んでいったんだ。だからそれらの曲をカヴァーする中で、僕たちアルゼンチン人としてそのエネルギー、歴史の一部がそこに存在しているって感じざるをえないんだ。

(ルイス・アルベルト・スピネッタ / バロ・タル・ベス)

■今回のアルバムに収録されている曲について、オリジナルが英語のものの一部は英語のままで、一部はスペイン語の歌詞を新たにつけて演奏されています。これには何か意図があるのでしょうか?

P:曲としても言語においても違うバージョンにしたかったね。

C:本当に大変だった。バルセロナで家から出られない時にやったの。レコーディングが終わってからバルセロナに留学したんだけど、パウロは舞台音楽の修士をやって、私はベースの先生についたの。他にも曲が出てきた事もあって、アルバムのレコーディングを完成させるために2回目にロサンゼルスに行こうと思っていた中、新型コロナウィルスが始まって、フライトがキャンセルされちゃったの。

P:で、バルセロナに足止めをくらっちゃった。

C:でも、ものすごく仕事したの!しかも部屋のクローゼットを使って!すごかったの。

P:その時に本当に色々な曲のスペイン語バージョンを作ったんだ。アルバムに入ったものも入らなかったのもあったけどね。“Treaty”もスペイン語バージョン作ったんだけど、レナード・コーエンのコンセプトをスペイン語にする事は至難の業。

C:コンセプトを伝えて、同時に音もしっくりくる感じにする事は大変。英語は、子音に依存しているスペイン語よりももっと柔らかいし。本当にとても大変だった。”Deja Atrás” “Walk on by” “Waiting for My Man” “Esperándote”…ってとてもいいものもあった。

(「ウォーク・オン・バイ」。ここでは彼らの母国語であるスペイン語でカバーされている)

P:アルバムはバイリンガルにしたかったから色々カヴァーしたんだ。英語すぎず、スペイン語すぎず、ってバランスをとってったんだ。皆にはこんなスタンダード曲をスペイン語でやることはクレイジーだ、って言ってくれるよ。“Waiting for My Man”なんかは、ものすごく面白いストーリーに仕上がっているんだ。スペイン語だとクスリを買う事を題材にしたロックな曲になっていて…スペイン語だと結構面白いんだよ。

C:女性は「待っていて」ロマンチックな側面もあるんだけど…

P:女性がクスリを買うために「私の彼」を「待って」いるから結構コミカルなんだ。彼氏を待っているのか、クスリの売人を待っているのか、って言うダブル・ミーニングなんだよ。

C:そうそう、クローゼットの話なんだけど、アパートそのものがとても狭くて、人の声が聞こえるところで、こっちがレコーディングしていても廊下でビール呑んでいたりして騒々しかったし、しかも真下に地下鉄があったの。だから箪笥の中に入ってレコーディングしたの。

P:マイクをクローゼットの中に入れて、そこにカンデが入って、僕がマットレス、枕、毛布で彼女を閉じ込めていったんだ(笑)そこで彼女がレコーディングして、終わると僕が引っ張り出すって言う感じで。しかも皆夜更かしだから寝付く3時くらい、或いは早朝にレコーディングしなきゃいけなかった。でも早朝はヴォーカルにとって良くなかったり…

C:でも朝一の方が体が休めているけどね…

P:隣人がおとなしくなるのを待ってレコーディングしていた。でも皆家に閉じこもっていたから、もう我慢できない!って、近所の人たちとパーティーする人もいたからそれが終わるのを待たなきゃいけなくて…政府が出してくれた帰国便を待っていた状態だったから体調に相当気をつけなきゃいけなくて、招待されてもいけなかったんだ。外国だったし、自国で病気するのとはわけも違うしね。

■今回は梶芽衣子との共演による「修羅の花」も大きな聞きどころの一つかと思います。梶芽衣子の大ファンと言うお話を伺ったのですが、どの様にして彼女を知ったのか、また彼女の歌や映画の魅力はどの様なところか、教えていただけますか?

(梶芽衣子と共演した「修羅の花」。日本盤限定ボーナス・トラックとして収録後、7月2日にはシングルとして配信リリースされた)

P:タランティーノを通して彼女を知った。僕は『キル・ビル』のを聴いていたけど、彼女は結構前から色々聴いていて注目していたんだ。歌手としての彼女は素晴らしいよね。カンデはなんか西洋的なものがあるって言っていて…

C:そう、歌う時に西洋的な何かがあって気になったの。日本語はスペイン語よりももっと難しいけど、子音的響きが通ずる点だと思うの。さ行の濁音とかもイタリア語っぽいと思う。日本語はもっと学びたいわ、芸術だと思うから。文字にしてもそうよね。

(「修羅の花」のオリジナル録音。映画『キル・ビル』でも使用され、サウンドトラックにも収録された)

■「修羅の花」では日本語での歌唱に挑戦されており、その発音の完璧さに驚きました!日本語はどこかで勉強されていたのでしょうか、それとも梶芽衣子の曲を聴きながら耳で発音を覚えられたのでしょうか?

C:耳で歌詞を覚えて、日本のユニバーサルにちょっと手伝ってもらったの。歌ではなくて喋ってもみたけれど、アクセントがかなり違うからそこがとても大変だった。でも、歌ってしまうとアクセントは関係なくなって音楽の一部になるから、この曲を通して言葉と音楽性で経験できた事はとても特別だったわ。

P:芽衣子は本当に東洋的なんだけど、なんか西洋的な歌い方、歌詞の言い回しをする気がする、ってカンデが言うんだよね。なんだろう、すんなり自然に耳に入ってくる感じ。

C:色々な日本の歌手を聴いてみても、アクセントが音楽にあう事もあればそうじゃない人もいるから、魅力的よね。日本語書ける様になってみたいわ。

■梶芽衣子以外に興味のある日本の文化はありますか?インスタのストーリーズで盆栽に触れているあなた達を見た事がある様な覚えがあります(違っていたらすみません)!

C:そう、バルセロナで開かれた盆栽の展覧会をストーリーズにのせたの。日本文化が全部好きよ。余りにも幅広くて歴史が古いからもっと勉強しないとね。盆栽はすごいのよね。アルゼンチンでも盆栽を売っているけど、ちょっとアルゼンチンっぽく仕上がった偽物(笑)

■今回は梶芽衣子との共演が実現しましたが、その他に共演してみたいアーティストがいれば教えていただけますか?

C:あの曲で手一杯だったから(笑)色々いるけどリストにしないとね!

P:あの曲を聴いて日本に送ったら、芽衣子がレコーディングしたいって言ったんだよ。こりゃまずい事になったな、って思ったんだよね。だってカンデの歌詞が伝わる事を考えるだけじゃなくて、今度は芽衣子と歌わなきゃいけない訳だからね。

C:彼がプロデュースもアレンジもしてくれていたの。

P:僕たちは日本に行った事ないし、つながりすらなかった。ブエノスアイレスには日本人がいるけど、サン・ファンには日本関係で唯一いるのは日本語の先生だけどタイ人。能とか歌舞伎とかってたとえば観てみて一生懸命理解してみようと思うんだけど、実際のところは理解できていないと思うんだよ。日本文化を見て楽しんでもそれがとってどれくらいそれが意味を持つものか実際には理解しきれていない気がする。だから音楽をやるにあたってもそれを考えたんだよね。静寂であったり、間であったり、カンデと芽衣子の声が交差する事で生じる音とか…本当に大変な仕事だったな。

C:次の事なんて考えられなかったの。この質問をうけて次どうすうか考えてみるわ。

P:他のアーティストともやってみたいけど余り考えてはいなかったね。

C:ドイツ語、フランス語、イタリア語なんかの曲も今みているところ。

P:他の言語でもやってみているし、色々なアーティストもいるけど…僕はジェイムズ・ブレイクと共演してみたいな。”Limit to Your Love”は大好きな曲だったからスペイン語でやってみたから、彼とはいつか一緒にやってみたいな。ロドリーゴ・アマランテとも共演できれば最高だね。彼のヴォーカルは最高だし、彼らを直接知っているわけではないけど、カヴァーをしたからにはどんどんのめりこんでいくって言うか、なんかつながりとか共感とかが生まれるんだよね。

https://youtu.be/oOT2-OTebx0
(ジェイムズ・ブレイクによる「リミット・トゥ・ユア・ラヴ」ミュージック・ビデオ。カンデ・イ・パウロが彼のヴァージョンをベースとしていることが伺える)

■なるほど。

P:あと「修羅の花」をやっているずっとうまくできているかって不安があったんだよね。でももっと不安にさせられたのは、日本人が完璧なまでにタンゴを歌うって言う事だったんだよ。それで辛くなっちゃって(笑)日本人がタンゴを歌う時って本当に発音もすごいよね。だから不安になっちゃったんだ。

■SNSを見ていると、犬や猫、ウサギといった多くの動物が登場していますね!全部でどれくらいの動物を飼っているんでしょうか?

P:犬4匹、猫1匹、ウサギ2匹。

C:サン・ファンでは動物に対する法律が余りなくて、ある日歩いていたら子犬が5匹入っている箱を見つけたの。とっても小さくて弱っていたから、連れて帰って2か月必死で面倒を見たの。仕事たくさんあった上に犬の面倒で四苦八苦。

P:余りにも弱っていたから24時間付きっ切りでやらなければならなかったんだよね。脱水になったり、もっと弱っちゃったりしちゃったら大変だったからね。元気になったから人に上げたけど、後1匹残っているの。こんなに動物がいて、こんなに仕事あると大変だからもう一匹も引き取ってもらわないと。

■いつか日本であなた達の演奏を見る事が出来る日がくる事を日本のファンは心待ちにしています。最後に日本のファンへ伝えたいメッセージがあればぜひお願いします! 

P:日本に本当に行きたくてむずむずしているから早く落ち着くといいなって思っている。ずっと日本に行きたいって思っていたからね。

C:私も。本当にこれがはやく落ち着いて会えるといいな。

P:日本に行って、音楽を披露できて、何か共感できればいいな。

C:アルバムの曲を全部日本語で歌ってみたいな。「修羅の花」の英訳見たけどスペイン語は余りなかったのよね。日本語って本当に言語そのものが芸術だと思う。とても詩的な感じがするの。何も知らないから言えるのかもしれないけれど、全く違う概念で訳しきれない気がするの。

P:日本に行く事ができるといいね。


■リリース情報

カンデ・イ・パウロ デビュー・アルバム『カンデ・イ・パウロ』
2021年6月4日発売 SHM-CD UCCM-1263 ¥2,860(税込)
https://jazz.lnk.to/CandeyPaulo_CPPR

収録曲 ※括弧内はオリジナル・アーティスト
01. トリーティ (レナード・コーエン)
   Treaty
02. サマータイム (ジョージ・ガーシュウィン)
   Summertime
03. リミット・トゥ・ユア・ラヴ (ファイスト)
   Limite En Tu Amor
04. ウォーク・オン・バイ (ディオンヌ・ワーウィック)
   Deja Atras
05. アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー (フランク・シナトラ)
   I Fall In Love Too Easily
06. トゥージョ (ロドリーゴ・アマランテ)
   Tuyo
07. 僕は待ち人 (ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)
   Estoy Esperandote
08. シュガー・マウンテン (ニール・ヤング)
    Sugar Mountain
09. スリル・イズ・ゴーン (レイ・ヘンダーソン)
   The Thrill Is Gone
10. バロ・タル・ベス (ルイス・アルベルト・スピネッタ)
   Barro Tal Vez
11. プレグンタン・デ・ドンデ・ソイ (アタウアルパ・ユパンキ)
   Preguntan De Donde Soy
12. イントゥ・ホワイト (キャット・スティーヴンス)
   En Blanco Estas
13. 修羅の花 feat. 梶芽衣子 (梶芽衣子) *
   Shura No Hana
*日本盤限定ボーナス・トラック

■カンデ・イ・パウロ リンク情報
ユニバーサル・ミュージック: https://www.universal-music.co.jp/cande-y-paulo/
本国公式HP: https://www.candeypaulo.com/
Twitter: https://twitter.com/candeypaulo
Facebook: https://www.facebook.com/CandeyPaulo