PICK UP

今、アリス・コルトレーンが蘇る。幻の音源『キルタン~トゥリヤ・シングス』を今聴くべき理由

文:原田和典

今こそ多方面からアリス・コルトレーンにアクセスできる時期なのだ、と言い切ってしまいたい。
織田信長に仕えたアフリカ人に題材を求めたネットアニメシリーズ『YASUKE -ヤスケ-』のサウンドトラックを、去る6月にCDとして発表したばかりのフライング・ロータス。
壮大かつ感動的なライヴ・ショウを収めた映画『アメリカン・ユートピア』が、5月から日本でも公開されて大評判のデイヴィッド・バーン。
来たる10月に満97歳を迎える、最高齢ジャズ・ミュージシャンのひとりであるヴィブラフォン奏者テリー・ギブス。
インパルス・レーベル移籍第一作が待たれるジャズ・ハープの精鋭、ブランディ―・ヤンガー。
ポスト・メイシオ・パーカー系のひとりとして脚光を浴び、近年はモード・ジャズ〜スピリチュアル・ジャズへの接近をみせるサックス奏者レイクシア・ベンジャミン。
 


©Frans Schellekens


接点があるかどうかもわからない五者の真ん中にアリス・コルトレーンを置くと、実に魅力的な軌道が生まれる。バーンは自身のレーベル“ルアカ・バップ”から2017年にアリスのコンピレーション・アルバム『The Ecstatic Music of Alice Coltrane Turiyasangitananda』を発表。フライング・ロータスにとってアリスは大叔母(彼は“アウンティー”と呼んでいたようだ)にあたり、トリビュート曲「アウンティーズ・ハープ」ではアリスの楽曲「ギャクシー・イン・トゥリヤ」がサンプリングされている。また、ぼちぼち日本にも入荷し始めているギブスのフレッシュ・サウンド盤CD『Plays Terry Gibbs featuring Alice McLeod』には、まだ旧姓アリス・マクラウドと名乗っていた頃の貴重なレコーディング作品『The Family Album』『El Nutto』の音源がまるまる含まれているのが嬉しい。いっぽう、ブランディ―はこれまでの作品でアリスの「ブルー・ナイル」や「ゴスペル・トレーン」をカヴァー。そのブランディ―も参加するレイクシアの最新作『パースエンス:ザ・コルトレーンズ』には、ジョン・コルトレーンの楽曲だけではなく「オーム・シャンティ」や「トゥリヤ・アンド・ラマクリシュナ」などアリスの楽曲もしっかり収められていた。ジョン単独への捧げものは過去、特にサックス奏者のものを中心に数えきれないほどあったはずだが、『パースエンス』は“夫妻”に捧げた点ひとつとってもコロンブスの卵的な新鮮味があり、多少大げさに言えば、コルトレーン・トリビュート界の次頁を開いてしまった。

そして7月16日、アリス・コルトレーンのいわくつきの一枚が、インパルス・レーベルから装いも新たに登場する。題して『キルタン~トゥリヤ・シングス』。主奏楽器であるピアノやハープへの手を休めて、オルガンとヴォーカルに集中した異色作だ。“キルタン”とは祈りを音楽に乗せて神に届ける、いわゆる「歌うヨガ」.を示し、“トゥリヤ”はアリスの宗教名“トゥリヤサンギーターナンダ”(意味するところは“transcendent lord's higest song of bliss”。シヴァ神による至福の歌といったところか)に因む。もっとも熱心なアリス・ファンであれば1982年の下半期、彼女がAvatar Book Instituteという会社から、『トゥリヤ・シングス』なるカセット・テープを出したことをご存じかもしれない。では、今度アルバム化される『キルタン~トゥリヤ・シングス』と、500本ほどしか制作されなかったとされるカセット『トゥリヤ・シングス』の関係は?

ずばり、同じ演目だが音作りが異なる。アリスの歌とオルガンを軸にしつつも、カセット版にはシンセサイザーやストリングスの音を重ねたり、一部楽曲に強くエフェクトをかけるなどの編集がなされていたが、『キルタン~トゥリヤ・シングス』は、再発監修を務めるサックス奏者ラヴィ・コルトレーン(ジョンとアリス夫妻の次男)の意向により、“ネイキッド”な形でのリリースとなる。よりクリアーに、より素の形でアリスのオルガン弾き語りが満喫できるのだ。アリスは『ラダークリシュナ・ナマ・サンキルターナ』(76年)、『トランセンデンス』(77年)といった旧作にヴォーカリストを招いてきたが、自ら歌った作品は間違いなくこれが初めて。1970年から信仰を続けるヴェーダの奥義を己の声で伝えたいという思いが極限に達したゆえの音源制作だったのか、82年8月にわずか14歳で事故死した長男ジョン・コルトレーン・ジュニア(ファミリー・バンドではベースを担当していた)への追悼もこめているのでは、など推測は膨らむ。慈しむような、語りかけるがごときアリスの歌声を、クリアーな状態で体験できるのは実に嬉しい。

「クシュリナ・クシュリナ」ヴィジュアライザー


オープニングを飾る「ジャガディシュワル」(サンスクリット語で“世界の神”)は、2004年リリースのアルバム『トランスリニア・ライト』で再演されたナンバー。そこではラヴィのサックスが主旋律を奏でていたが、ここではアリスが淡々と自らの声で歌いあげる。「ジェイ・ラマチャンドラ」(ヴィシュヌ神の勝利)、ヴィシュヌ派の最高神に捧げた「クリシュナ・クリシュナ」、クリシュナ神の別名“ゴーヴィンダ”に因む「ゴーヴィンダ・ハリ、シヴァ神に因む「ハラ・シヴァ」(“Hara”は“壊滅させる者”を意味すると同時に、シヴァ神の別名でもある。終末の時に、世界のすべてを滅亡させる力を持つとされるため)「ハラ・シヴァ」などなど、つまるところは神への愛と信仰の告白なのだろうが、なにしろ演者はアリス・コルトレーンゆえ、音楽の骨格がしっかりしており、いわゆる“ジャズ・アルバム”(7月21日に『トランスリニア・ライト』を含む8タイトルが再発)に込められた、視線の先に雄大な風景が眩しく広がる作風に感動を覚えてきた者にとっては、これもまた得難い好物になることは間違いないはずだ。筆者は時おりニーナ・シモンやアミナ・クローディン・マイヤーズの弾き語りを思い浮かべつつ、各曲に浸った。なかでも“足”を意味するサンスクリット語タイトルがつけられた「チャラナム」は、繰り返し再生せずにはいられないグル―ヴの魔力に包まれている。


■リリース詳細
アリス・コルトレーン
『キルタン ~トゥリヤ・シングス』

好評発売中
品番:UCCI-1050[SHM-CD]
価格:\2,860 (税込み)
https://jazz.lnk.to/AliceColtrane_KrishnaPR

【収録曲】
01. ジャガディシュワル / Jagadishwar   
02. ジェイ・ラマチャンドラ / Jai Ramachandra                 
03. クリシュナ・クリシュナ / Krishna Krishna             
04. ラマ・カタ / Rama Katha             
05. ヤムナ・ティラ・ヴィハリ / Yamuna Tira Vihari
06. チャラナム / Charanam 
07. ゴーヴィンダ・ハリ / Govinda Hari                                     
08. ハラ・シヴァ / Hara Siva             
09. プラナダーナ/ Pranadhana


■関連リンク
公式HP: https://www.universal-music.co.jp/alice-coltrane/
本国公式HP: https://www.alicecoltrane.com/
Facebook: https://www.facebook.com/AliceColtraneOfficial


【関連記事】
【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.6】 ALICE COLTRANE / JOURNEY IN SATCHIDANANDA
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/336451?wid=68497
ジョン・コルトレーンの妻にしてスピリチュアル・ジャズのゴッド・マザー、アリス・コルトレーンの幻の音源『キルタン ~トゥリヤ・シングス』の初CD化が決定!ヴィジュアライザーも公開
https://bluenote-club.com/diary/336781?tags=NEWS&wid=67716