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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第11回 マイ・ファニー・ヴァレンタイン


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第11回】
マイ・ファニー・ヴァレンタイン
My Funny Valentine
作曲:リチャード・ロジャース
作詞:ロレンツ・ハート
1937年


「101回目のプロポーズ」というテレビ・ドラマをご存知でしょうか。1991年、浅野温子さんと武田鉄矢さんが主演したこのドラマは、それまでの「主役は美男美女」という常識を覆す設定が大きな話題となったものでした。

ところがそれよりさらに半世紀以上も前、そんな男女の関係性を先取りして歌った曲がありました。〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉です。

この歌は、1937年のミュージカル『ベイブズ・イン・アームズ』(邦題『青春一座』)の挿入歌で、作ったのはリチャード・ロジャース(作曲)とロレンツ・ハート(作詞)。タイトルのヴァレンタインとは主人公の男性の名で、歌うのはその恋人です。

「私のおかしなヴァレンタイン。お人好しで滑稽なヴァレンタイン。(中略) けれど、あなたは私のお気に入りの芸術作品~」…けなしてけなして最後に持ち上げるこの歌詞、たしかに洒落てはいますが、実際にお芝居で歌うとなるとなかなか厄介だったのでは。だってこれ、男性は「あなたの顔、変」といわれているわけで、“主役は顔が命”だった当時のショー・ビズ界では、なかなか整合性が取れなかったのではないかと思うのです。事実、初演時にヴァレンタイン役を演じたレイ・ヘザートンは写真で見る限りかなりのイケメンで、ちょっと説得力に欠けるところがあります。それにくらべて映画版のミッキー・ルーニーはベビー・フェイスなルックスといい背が高くないところといい、まさにピッタリ。ただし映画では主人公の名前がヴァレンタインではないため、肝心の〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉はカットされてしまっているのですが。

異色の歌詞ばかりに注目が集まることの多いこの歌ですが、曲も魅力的であることはインストのカヴァーも多いことが証明しています。ちょっと暗めのマイナー調から同じ音型を繰り返しながら少しずつ盛り上がり、最後に「Stay~~」と歌い上げる構成感などは本当に見事。このあたりの歌詞とメロディーの阿吽の呼吸は、長年いっしょに曲を書いてきたこのコンビならではのものでしょう。

ところで作詞のハートは、背が低く同性愛者でアルコール依存症だったとか。そんな自分を肯定したい…あるいはこの歌詞には無意識にそんな気持ちが込められていたのかもしれません。


●この名演をチェック!

マイルス・デイヴィス
アルバム『クッキン』(Prestige)収録


マイルスはこの曲をずいぶん気に入っていたようで、ライヴでも頻繁に取り上げていました。これはその最初の録音。レッド・ガーランドが奏でる愛らしいイントロに誘われて登場するマイルスのリリカルなテーマ吹奏は、まさに絶品!



スティング
アルバム『デュエッツ』(A&M)収録


男性の歌う〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉には、チェット・ベイカーの決定版があるのですが、ここでは敢えて別のものを。マイルスともこの曲の名演を残しているハービー・ハンコックをフィーチャーしたスティングの名唱。ハスキーでエモーショナルな歌声が胸に迫ります。