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COLUMN 【連載】Sampling BLUE NOTE(第1回~5回)

 

【第1回】

Donald Byrd / Dominoes
ドナルド・バード「ドミノス」
AL『プレイシズ・アンド・スペイシズ』収録



◆サンプリング例
DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince / Brand New Funk
Stetsasonic / Talkin’ All That Jazz (Dominoes Mix)
Carleen Anderson / True Spirit (Domino Mix)


ジャズ・レーベルの中でも<ブルーノート>はサンプリングの宝庫である。ヒップホップやR&Bなどでジャズの楽曲がサンプリングされる場合、ビートを作り出しやすいという理由で1960年代後半から1970年代にかけてのジャズ・ファンクが多く用いられるのだが、<ブルーノート>の特にLA時代はそうした作品が多いのである。たとえばLA時代を代表するプロデューサーのラリーとフォンスのマイゼル兄弟が手掛けた作品群がまず浮かぶが、本コラムの第1回は彼らスカイ・ハイ・プロダクションズの作品から進めたい。

スカイ・ハイ・プロダクションズの最高傑作の一枚がトランペット奏者ドナルド・バードの『Places And Spaces』(1975年)である。バードの演奏というより、コーラスやウェイド・マーカスのストリングス・アレンジまで含めたトータル・サウンドが優れていて、1970年代半ばらしいジャズ、ファンク、ソウルがクロスオーヴァーした作品だ。バック演奏もハーヴィー・メイソン、チャック・レイニー、スキップ・スカボローなど、当時最強のスタジオ・セッション・ミュージシャンが固めている。このアルバムからシングル・カットされた人気曲「Dominoes」は、DJジャジー・ジェフ、アイス・キューブ、トニー・タッチ、スヌープ・ドッグ、DJシャドウらヒップホップ勢によって20数曲もサンプリングされた。一番古いのがDJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンスの「Brand New Funk」(1988年)で、ヒップホップの歴史ではオールド・スクールからニュー・スクールへの転換期、デ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クエストなど新世代が台頭してきた頃である。

Donald Byrd / Dominoes



DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince / Brand New Funk



同時期にステッツァソニックも「Talkin’ All That Jazz」(1988年)のその名も“Dominoes Mix”というヴァージョンで使用するが、この曲は当時のUSのジャズ・ラップとUKのアシッド・ジャズを繋ぐ曲でもあった。アシッド・ジャズの人気グループのヤング・ディサイプルズのシンガー、カーリン・アンダーソン(ジェイムズ・ブラウン一門の歌姫だったヴィッキー・アンダーソンの娘)がソロ転向後にリリースした「True Spirit」(1994年)でも“Domino Mix”でサンプリングしていて、この曲がいかにアシッド・ジャズやレア・グルーヴ・シーンでも愛されていたかがわかる。この曲はだいたいチャック・レイニーのベース・ラインがサンプリングされることが多くて、DJの耳のつけどころがどこにあるのかを示す一例でもある。

Stetsasonic / Talkin’All That Jazz (Dominoes Mix)



Carleen Anderson / True Spirit (Domino Mix)




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ブルーノートとヒップホップの関係:最高峰のジャズ・レーベルは、いかにして最先端の音を受け入れ形成し続けているか
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【第2回】

Donald Byrd / Wind Parade
ドナルド・バード「ウィンド・パレード」
AL『プレイシズ・アンド・スペイシズ』収録



◆サンプリング例
Wale / Thank God


第1回に続きドナルド・バードの『Places And Spaces』(1975年)から。前回紹介の「Dominoes」、サンプリング・ソースのバイブル的なコンピの『Ultimate Breaks & Beats』にも収録された「Change (Makes You Want To Hustle)」を筆頭に、「You And The Music」「Night Whistler」に表題曲の「Places And Spaces」、ザ・テンプテーションズをカヴァーした「Just My Imagination」と名曲揃いで、それぞれサンプリングにも引っ張りだこなのだが、こうしたアルバムの中でもっとも美しい曲が「Wind Parade」である。

アルバム・ジャケットの飛行機の写真は、ラスヴェガスでパイロット免許を持つバードが操縦する小型飛行機にプロデューサーのマイゼル兄弟が乗ったときに撮影したものだ。遊び仲間でもあった彼らにとって、それは本当に楽しく素晴らしいひとときで、そうした体験の中でアルバム制作に関するアイデアも次々生まれて『Places And Spaces』は誕生した。「Wind Parade」はまさにそんな空の旅がモチーフとなった曲で、バードやマイゼル兄弟にとってもアルバム中でもっとも好きで大切な曲のひとつだったという。キラキラと美しいフェンダーローズやストリングス、浮遊感に満ちた女性コーラスを従えながら、バードのトランペットが哀愁のフレーズを奏でていく。マイゼル兄弟の都会的なメロウネスを代表する1曲であり、バードにとってもそれまでなかった新生面を見せる作品となった。

Donald Byrd / Wind Parade


そんな「Wind Parade」は『Places And Spaces』の中でもフェイヴァリットに挙げる人が多く、もっともたくさんサンプリングされている。およそ30曲近くの作品でサンプリングされていて、ざっと挙げると2パックの「Definition Of A Thug Nigga」、ブラック・ムーンの「Buck Em Down」、オーガナイズド・コンフュージョンの「Stray Bullet」などがある。これらは1990年代の曲だが、2000年代ではO.C.の「The Inventor」、KRSワン&マーレイ・マールの「Over 30」、カレンシーの「Mandatory」などがあり、2010年代もモニカの「So Gone」の“9th Wonder Remix”やジ・アルケミストの「Bloodhounds」など、あらゆる年代に渡って愛されてきている。サンプリング・ソースも時代によって流行廃りがあるのだが、「Wind Parade」はまさしく不朽の名曲というわけである。比較的近年のサンプリング例であるワーレイの「Thank God」(2017年)は、全面的に「Wind Parade」を使用したトラックというより、ほぼ「Wind Parade」をバックにワーレイがラップと歌を聴かせるといった具合。ほとんど手を加える必要がないということだろうか、それだけ「Wind Parade」という曲の完成度の高さを物語る。

Wale / Thank God



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  【第3回】
Ronnie Foster / Mystic Brew
ロニー・フォスター「ミスティック・ブリュー」
AL『トゥー・ヘッディド・フリープ』収録



◆サンプリング例
A Tribe Called Quest / Electric Relaxation
J. Cole feat. Kendrick Lamar / Forbidden Fruit
Madlib / Mystic Bounce


<ブルーノート>のサンプリング・ソースについて尋ねられ、ヒップホップ・ファンなら真っ先に思い浮かべるのがロニー・フォスターの「Mystic Brew」ではないだろうか。サンプリング・ソースの辞書的サイトのWhosampled.comでは、「Mystic Brew」の使用例は30曲ほど紹介されている。その中の人気曲にはJ・コールがケンドリック・ラマーをフィーチャーした「Forbidden Fruit」(2013年)、マッドリブによる「Mystic Bounce」(2003年)などが並ぶ。ちなみに「Mystic Bounce」は<ブルーノート>からリリースされた『Shades Of Blue』の収録曲で、このアルバムはマッドリブが1970年代の<ブルーノート>音源をリミックスしたものだ。

そうした中で一番人気はア・トライヴ・コールド・クエスト(ATCQ)の「Electric Relaxation」(1993年)である。1989年にデビューしたATCQは活動当初からジャズを積極的にサンプリングしており、キャノンボール・アダレイ、ロイ・エアーズなどのネタを使って曲を作ってきた。セカンド・アルバムの『The Low End Theory』(1991年)ではロン・カーターをゲストにフィーチャーし、ジャズに対する理解や愛情もヒップホップ・アーティストの中では随一である。「Electric Relaxation」は3枚目のアルバムの『Midnight Marauders』に収録されており、彼らの人気が頂点に達した頃の作品。ウェルドン・アーヴィン・ネタの「Award Tour」と共に、アルバムを代表する楽曲だ。この曲によって元ネタの「Mystic Brew」を知ったヒップホップDJは数知れず、その後のサンプリング・スタイルの指針にもなっていった。J・コールにしてもマッドリブにしても、「Electric Relaxation」というお手本があったからこそ「Mystic Brew」をサンプリングしたのである。

「Mystic Brew」はロニー・フォスターのデビュー・アルバムの『Two-Headed Freap』(1972年)に収録される。後にエレピやアコースティック・ピアノ、シンセも演奏するフォスターだが、当初はオルガン奏者だった。1960年代の主流のハモンド・オルガンによるソウル・ジャズから脱却し、1970年代前半のエレクトリック・ジャズやジャズ・ファンクの流れに乗り、その後のクロスオーヴァーやフュージョンの時代を切り開いていくひとりとなった。『Two-Headed Freap』のプロデュースはジョージ・バトラー、アレンジャーはウェイド・マーカスで、モダン・ジャズのみならずソウルやファンクなど多方面にも鼻が利く人たち。1970年代における新しい<ブルーノート>を牽引する面々が集まったレコードなのである。ちなみに、原盤はATCQのサンプリングのおかげで一気に中古盤店の人気レコードになってしまった。

Ronnie Foster / Mystic Brew


A Tribe Called Quest / Electric Relaxation



J. Cole feat. Kendrick Lamar / Forbidden Fruit



Madlib / Mystic Bounce



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【第4回】
Lonnie Smith / Spinning Wheel
ロニー・スミス「スピニング・ホイール」
AL『ドライヴス』収録




◆サンプリング例
A Tribe Called Quest / Can I Kick It?
A Tribe Called Quest / Buggin Out
DJ Krush / Big City Lover


先ほど新作の『Breathe』を発表したばかりのロニー・スミス。ドクター(博士)の冠を配するこのオルガン・レジェンドも御年78歳。しかしながら気はまだ若く活力に満ち、『Breathe』ではなんとロック界のカリスマのイギー・ポップ(彼もまた74歳)と共演し、ティミー・トーマスの「Why Can’t We Live Together」やドノヴァンの「Sunshine Superman」をやっている。ジャズ・オルガン奏者ながらロックやR&B、ファンクの曲を好んで取り上げてきたのは昔からお馴染みで、1970年の『Drives』ではブラッド・スウェット&ティアーズの「Spinning Wheel」を演奏する(当時この曲は多くのジャズ・ミュージシャンが取り上げた定番人気曲だった)。荒々しいハモンド・オルガンのリフ、ジョー・デュークスによるドカドカとダイナミックなドラム・ビート、ロニー・キューバーによる極太のバリトン・サックスの咆哮が印象的なこのカヴァーは、60年代後半から70年代前半のロニー・スミス全盛時代を代表する1曲である。

Lonnie Smith / Spinning Wheel



ロニー・スミスの曲もいろいろとサンプリングされるが、「Spinning Wheel」はなんと120を超す作品で使われている。主なところではウータン・クラン、ビースティー・ボーイズ、ブラック・ムーン、ビートナッツ、ランDMC、ファット・ジョー、デ・ラ・ソウル、ショービズ&A.G.、スヌープ・ドッグなどが用い、1990年代前半の人気サンプリング・ソースだった。そうした中でア・トライブ・コールド・クエストの使用例がもっとも有名だ。よほどのお気に入りだったのだろう、1990年の「Can I Kick It?」(アルバム『People’s Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』収録)と1991年の「Buggin Out」(アルバム『Low End Theory』収録)と2度使っている(サンプリングしているパートはそれぞれ異なる)。特にルー・リードの「Walk On The Wild Side」、ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンドの「Sunshower」と交えながら使った「Can I Kick It?」は衝撃的で、1990年代のヒップホップ黄金時代の幕開けを告げる1曲として記憶される。

A Tribe Called Quest / Can I Kick It?



A Tribe Called Quest / Buggin Out



ほかにもトミー・ゲレロやナイトメアズ・オン・ワックスなど、ヒップホップにとどまらない幅広いアーティストに使われる「Spinning Wheel」だが、日本でもDJクラッシュがデビュー・アルバムの「Big City Lover」(1994年)で用いた。マイルス・デイヴィスの「Stuff」のほかに、ルー・ドナルドソンの「Ode To Billie Joe」に「Spinning Wheel」と<ブルーノート>音源2曲を用いた作品となっている。「Big City Lover」はソニア・ヴァレットのヴォーカルをフィーチャーしたR&B的なナンバーで、当時はアシッド・ジャズ方面でも人気を博したのだった。

DJ Krush / Big City Lover




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【第5回】
Marlena Shaw / Woman Of The Ghetto
マリーナ・ショウ「ウーマン・オブ・ザ・ゲットー」
AL『ライヴ・アット・ザ・モントルー』収録




◆サンプリング例
St. German / Rose Rouge
Blue Boy / Remember Me


ジャズ・ネタのサンプリングは多くの場合ヒップホップで見られるのだが、例外としてマリーナ・ショウの「Woman Of The Ghetto」はそれ以外のジャンルでの使用例が有名だ。そもそもこの曲は<カデット>時代の『The Spice Of Life』(1969年)に初めて収録された。こちらの原曲ヴァージョンもサンプリングに用いられ、さらに「California Soul」という超有名サンプリング・ソースも収録している。しかし、「Woman Of The Ghetto」は『Live At The Montreux』(1974年)に収録されたライヴ・ヴァージョンのほうの人気が高い。1973年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴの模様を収録したアルバムで、スティーヴィー・ワンダーの「You Are The Sunshine Of My Life」やマーヴィン・ゲイの「Save The Children」を歌うなど、ニュー・ソウルに接近していた時期の録音である。「Woman Of The Ghetto」に関してもジャズというよりソウルやゴスペル色が強く、ダニー・ハサウェイやカーティス・メイフィールドのライヴ・アルバムに通じる匂いを放っている。

Marlena Shaw / Woman Of The Ghetto



「Woman Of The Ghetto」の演奏はジョージ・ギャフニー、ハロルド・ジョーンズ、エド・ボイヤーのトリオによるジャズ・ファンク的なものだが、多くの曲でサンプリングされるのはイントロのマリーナ・ショウのアカペラ・パートである。その代表がサン・ジェルマンの「Rose Rouge」で、前述のとおりヒップホップでなくクラブ・ジャズやハウスに分類される作品である。サン・ジェルマンはフランスのエレクトロニック系DJ/プロデューサーのルドウィック・ナヴァールによるプロジェクトで、ハウスやジャズをクロスオーヴァーしたサウンドで人気を博した。「Rose Rouge」は2000年の『Tourist』に収録されているが、このアルバムは<ブルーノート>からのリリースで、つまり<ブルーノート>が公認したサンプリングとなる。ちなみに昨年リリースされた『Blue Note Re:imagined』は、基本的に1960~70年代の<ブルーノート>音源を現在のUKジャズ新世代がカヴァーするというコンセプトなのだが、例外的にジョルジャ・スミスが「Rose Rouge」を取り上げ、サン・ジェルマンを介してマリーナ・ショウの「Woman Of The Ghetto」に繋がる形を見せた。

St. German / Rose Rouge



そして、サン・ジェルマンが「Rose Rouge」を発表する前の1997年には、スコットランドのハウス系DJのブルー・ボーイが「Remember Me」で「Woman Of The Ghetto」をサンプリングしている。こちらはスカル・スナップスの「It’s A New Day」、クール&ザ・ギャングの「N.T.」という鉄板ネタと組み合わせたブレイクビーツ・ハウス~トリップ・ホップ的な作品で、「Rose Rouge」の誕生にもインスピレーションを与えたことだろう。

Blue Boy / Remember Me




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