COLUMN/INTERVIEW

【連載】Sampling BLUE NOTE 第12回 Brother Jack McDuff / Oblighetto

“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


【第1回~5回はコチラ】
https://bluenote-club.com/diary/338003

【第6回~10回はコチラ】
https://bluenote-club.com/diary/338004



【第12回】
Brother Jack McDuff / Oblighetto
ブラザー・ジャック・マクダフ / オブリゲットー
AL『ムーン・ラッピン』収録




◆サンプリング例
A Tribe Called Quest feat. Leaders Of The New School / Scenario
JID / EdEddnEddy
Scientifik / Overnite Gangsta
Black Eyed Peas / New Wave
Ugly Duckling / Oasis
Sword Beach / Feelin It


複数のアーティストがひとつの同じ楽曲をサンプリングする例はたくさんあるが、原曲のどの部分をどう切り取り、どう加工していくかということで、アーティストによって違いが表われる。そうしたところがサンプリングの面白さでもあるが、今回はそうした視点からオルガン奏者ジャック・マクダフ(本名ユージン・マクダフで、ブラザー・ジャック・マクダフの愛称で呼ばれた)の「Oblighetto」を取り上げたい。1950年代後半から1960年代、そして1970年代前半にかけて<ブルーノート>で活躍したオルガン奏者には、ジミー・スミス、ベイビー・フェイス・ウィレット、フレディ・ローチ、ジョン・パットン、ラリー・ヤング、ロニー・スミス、ルーベン・ウィルソンなどが挙げられる。そうした中でジャック・マクダフの<ブルーノート>初リーダー作は、1969年6月録音の『Down Home Style』と遅かった。それ以前もグラント・グリーンのセッションなどで<ブルーノート>のレコーディングはあったものの、1960年のソロ・デビュー作の『Brother Jack』は<プレスティッジ>からで、以降は<プレスティッジ>の看板プレイヤーのひとりとして活躍してきたからだ。その後、<アトランティック>や<カデット>でもレコーディングを行い、<ブルーノート>とも契約を結ぶのだが、『Down Home Style』を出した頃はリズム・アンド・ブルース色の強いソウル・ジャズ全盛期で、彼もその一翼を担う存在だった。
続いてリリースした『Moon Rappin’』(1969年12月録音)は、『Down Home Style』ほどストレートなソウル・ジャズ・アルバムではなく、一風変わった作品となっている。編成的にはホーン・セクションが入り、「Flat Backin’」などではオーケストラ調のアレンジも施されている。「Made In Sweden」のようなジャズ・ロック調のナンバーありと、当時としてはかなり実験的な意欲作と言えるものだ。タイトル曲の「Moon Rappin’」ではオルガンのみならずピアノも演奏し(もともとマクダフはピアノからスタートしている)、アポロが月面着陸した年に作られたアルバムならではのコズミックな雰囲気を作り出している。そして、「Oblighetto」も『Moon Rappin’』を象徴する異色のナンバーだ。出だしはアーシーなソウル・ジャズだが、途中でミステリアスなオルガン・フレーズが入り、ジーン・デュションのワードレス・ヴォイスが挿入される。彼女はR&B系のシンガーだが、ここでは現代音楽ともオペラともつかない妖しいコーラスを披露し、楽曲に抽象的なイメージをもたらしている。そうした前衛的なパートを経て、中間ではホーンとオルガンによってグルーヴィーなジャズ・ロック調の演奏が展開される。1曲の中でもさまざまな表情、展開を見せる楽曲で、ジャズがいろいろな音楽と結びついて新たな時代を迎える、そんな当時の空気感を含んでいると言えよう。義務や強制といった意味合いの「Oblige」もしくは「Obligate」と、「ゲットー」を組み合わせた「Oblighetto」という造語のタイトルも何やら意味深である。

Brother Jack McDuff / Oblighetto


「Oblighetto」をサンプリングした曲はいろいろあるが、大きく分けると2つのパターンがある。ひとつは途中のミステリアスなオルガン・フレーズを用いたもので、この曲のもっとも有名な使用例であるア・トライブ・コールド・クエストの「Scenario」以下、JIDの「EdEddnEddy」やサイエンティフィックの「Overnite Gangsta」などがある。もうひとつはジーン・デュションのコーラスを用いたもので、ブラック・アイド・ピーズの「New Wave」、アグリー・ダックリングの「Oasis」、スウォード・ビーチの「Feelin It」などがこのパターンとなる。ア・トライブ・コールド・クエストの「Scenario」ではオルガンの不穏な音色がスパイスとして働き、JIDの「EdEddnEddy」ではさらにその効果をアブストラクトなトラックへと変容させている。サイエンティフィックの「Overnite Gangsta」は「Scenario」と同じような使い方で、クールなラップと相まって荒々しいストリート感を醸し出している。ブラック・アイド・ピーズの「New Wave」はデュションのコーラスをそのまま用い、MVでは女性シンガーの映像とうまくシンクロさせている。アグリー・ダックリングの「Oasis」ではドリーミーな雰囲気のパートを切り出して使い、サイエンティフィックの「Overnite Gangsta」では妖しい雰囲気のパートをテンポ・アップしてループさせている。それぞれアイデアに満ちた使い方をしているが、それは「Oblighetto」に多様性や複雑な要素が含まれているということでもある。ちなみに、ア・トライブ・コールド・クエストは「Check The Rhime」という曲で、サイエンティフィックは「It’s On」という曲でも「Oblighetto」をサンプリングしていて、それだけいろいろな使い方ができる楽曲だという証でもある。

A Tribe Called Quest feat. Leaders Of The New School / Scenario


JID / EdEddnEddy


Scientifik / Overnite Gangsta


Black Eyed Peas / New Wave

Ugly Duckling / Oasis


Sword Beach / Feelin It




関連記事
udiscovermusic.jp
ブルーノートとヒップホップの関係:最高峰のジャズ・レーベルは、いかにして最先端の音を受け入れ形成し続けているか
https://www.udiscovermusic.jp/stories/blue-note-and-hip-hop-influence