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【連載】Sampling BLUE NOTE 第15回 Blue Mitchell / Good Humor Man


“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


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【第15回】
Blue Mitchell / Good Humor Man
ブルー・ミッチェル / グッド・ヒューモア・マン
AL『ヘッズ・アップ』収録



◆サンプリング例
UMC’s / One To Grow On
Bloodhound Gang / Mama Say

 

元ネタとなるソウル、ファンク、ジャズなどの原曲と、それをサンプリングしたヒップホップの作品をカップリングしたとあるDJ用の7インチ・シリーズがある(権利関係が曖昧なので、あくまで非公式なリリースだろう)。ヒップホップでも既にクラシックとなっている1980~1990年代の作品が多く集められ、元曲ではジェイムズ・ブラウンなどの王道ネタに始まって、エチオピアン・ジャズのムラトゥ・アスタトゥケなど渋いところもラインナップされている。

そうした中で今のところ唯一の<ブルーノート>音源となるのがブルー・ミッチェルの「Good Humor Man」と、それをサンプリングしたUMC’s (ユニヴァーサル・MCズ)の「One To Grow On」である。

UMC’sは1990年代初頭のニューヨークで活躍していたハースGとクール・キムによるラッパー・デュオで、当時もっとも勢いのあったレーベルのひとつである<ワイルド・ピッチ>に2枚のアルバムを残している。「One To Grow On」はデビュー・アルバムの『Fruits Of Nature』(1991年)のオープニングを飾る曲で、シングル・カットもされた。

現在からすれば「One To Grow On」自体が古いスタイルの楽曲であることは否めないものの、元ネタのインパクトのあるフレーズを切り取って何度も反復し、新しい楽曲へ再構築するサンプリングを最大限に生かした作品であることは間違いない。しかも、「One To Grow On」は「Good Humor Man」の中のひとつのフレーズだけでなく、複数のフレーズをミックスさせるという高等な技術も使っており、サンプリング・カルチャーのスキル面でも見どころのある楽曲である。

UMC’s / One To Grow On


UMC’sのほかに「Good Humor Man」をサンプリングした例として、ブラッドハウンド・ギャングの「Mama Say」も挙げられる。ペンシルヴァニア州出身のブラッドハウンド・ギャングは現在こそオルタナ・ロック・バンドとしての位置づけが強いが、デビュー間もない1990年代前半はヒップホップも含めたミクスチャー・バンド色が濃く、「Mama Say」はそんな時期のファースト・アルバム『Use Your Fingers』(1995年)に収録される。UMC’sに対してワン・フレーズを力技でグイグイとループさせていくスタイルで、ミクスチャー・バンドらしい細かなことを気にしない何でもアリな音楽性がよく表れている。

Bloodhound Gang / Mama Say


元ネタの「Good Humor Man」は、ブルー・ミッチェルの<ブルーノート>第2作となる『Heads Up!』(1967年11月録音)に収録される。トランペット奏者のミッチェルはキャノンボール・アダレイやホレス・シルヴァーなど楽団でも活躍したハード・バッパーで、<ブルーノート>以外に<リヴァーサイド>や<メインストリーム>などにもリーダー・アルバムを残している。癌のために49歳で夭逝したが、1950年代から1970年代にかけて第一線で活躍してきた。

日野皓正と交流を持つなど日本にも縁があったプレイヤーで、何しろニックネームが“ブルー”(本名はリチャード・アレン・ミッチェル)というだけあり、ジャズのために生まれてきたような男だった。もともとリズム&ブルースのバンド出身ということもあり、ソウルフルで明快なプレイを身上とするが、時代に応じてロックやファンクなども取り入れるなど柔軟なところもあった。

そのように『Heads Up!』はジャズ・ロックに接近していた頃の作品で、ピアノをマッコイ・タイナー、ドラムスをアル・フォスターが務め、ホレス・シルヴァー楽団での同僚だった盟友的なテナー・サックス奏者のジュニア・クックほか数名のブラス・セクションが入るビッグ・コンボ編成。またデューク・ピアソンがアレンジをサポートし、ジミー・ヒースなどが楽曲提供を行うという充実した布陣だった。

ダイナミックなビッグ・バンド演奏から美しいバラード、さらにはラテンとバラエティ豊かな楽曲が収められるが、そうした中で「Good Humor Man」はハービー・ハンコックの「Watermelon Man」や「Cantaloupe Island」、それらでもトランペットを演奏するフレディ・ハバードの「Blacklash」や「The Return Of The Prodigal Son」路線の8ビートの曲である。

Blue Mitchell / Good Humor Man


「Good Humor Man」におけるミッチェルの哀愁に満ちたトランペットにはジャズのスタイリッシュな魅力が詰まっているが、この作曲者であるドン・ピケットはハバードの「Blacklash」も作曲している。そして、ハバードは『A Soul Experiment』(1968年録音)で「Good Humor Man」をカヴァーするが、それはミッチェルのヴァージョンをぐっとテンポ・アップした躍動的なジャズ・ロック演奏となっている。恐らくミッチェルの演奏に触発されて、そうしたアレンジを施したのだろう。

ハバードにとってミッチェルはひと回り上の影響を受けた世代にあたるが、逆に1960年代半ばからはミッチェルもハバードら新しいプレイヤーの台頭に刺激を受けていた。そうしたところから「Good Humor Man」が生まれ、それに対するハバードなりの返礼といったところだろう。

Freddie Hubbard / Good Humor Man