COLUMN/INTERVIEW

【連載】スタンダード名曲ものがたり 第17回 スターダスト


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。


文:藤本史昭


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【第17回】
スターダスト
Stardust
作曲:ホーギー・カーマイケル
作詞:ミシェル・パリッシュ
1927年


他のアメリカン・ポピュラー・ソングの作家にくらべると、ホーギー・カーマイケルの音楽はちょっと異質な香りがします。

なにが違うか。1つは、その曲想が即興的色合いを帯びていること。たいていの作家の曲は構築的なものが多いのに対し、カーマイケルの作品はもっと自由な“鼻歌”っぽい感じがするのです。これは彼が正式な音楽教育は受けず、一方でキャリアの初期にビックス・バイダーベックやルイ・アームストロング、キング・オリヴァーといった人たちといっしょに活動した――すなわちジャズマン的経験の持ち主であることが影響しているのかもしれません。

もう1つは、彼の音楽が、自然の風景やそれに伴う郷愁を思い起こさせること。スタンダードとなっている曲には都会的な匂いを感じさせるものが多いのですが、カーマイケルのそれは、アメリカ中西部の牧歌的でノスタルジックな景色を眼前に現出させます。たとえば〈ロッキンチェア〉、〈スカイラーク〉、〈我が心のジョージア〉、そして〈スターダスト〉。

〈スターダスト〉はカーマイケルが28歳の時の作品ですが、先に述べた彼の特質がすでに盛り込まれています。失恋の思い出に浸りながら夜空を眺めているうちに曲を思いついた…というエピソードの真偽はともかく、たしかにそのメロディーには作為性が微塵も感じられず、にもかかわらずそれは完璧な“歌”になっています。

またそれを耳にした時、人々の記憶の中にある“なにか”思い出させずにはおかないイメージの喚起力も半端ではありません。他のスタンダードでは省略されがちなヴァースの部分が歌われることが多い事実も、この曲の完成度の高さを示しています。

もっともこの曲、カーマイケルによる最初の録音を聴くとけっこうテンポが速く、あまりムーディーな感じはしません。そこで一計を案じたのが、彼が所属していた音楽出版社の経営者、アーヴィング・ミルズ(デューク・エリントンのマネージャーとしても有名な人です)。

ミルズは、ミシェル・パリッシュに歌詞を書かせ、それをバラード・テンポで演奏することを提案します。結果〈スターダスト〉はその真の魅力を引き出され、今では「すべてのアメリカ音楽の中でもっとも有名で、もっとも多く録音されたナンバー」(ブルタニカ百科事典)とまで言われるようになったのです。


●この名演をチェック!

ナット・キング・コール
アルバム『ラヴ・イズ・ザ・シング』(Capitol)収録


ヴォーカル・ヴァージョンについていえば、決定版はやはりナット・キング・コールのものでしょう。名匠ゴードン・ジェンキンスのエレガントなアレンジにのせて、ヴァースのパートからていねいに歌われるそれは、この曲の魅力を100%以上に伝えてくれます。
 



クリフォード・ブラウン
アルバム『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』(EmArcy)収録


れもストリングスをバックにした美しい演奏。ブラウンならではのブリリアントな音色と芳醇な歌心が全開された極上のイージーリスニング・ジャズです。こちらのアレンジはニール・ヘフティ。バックはマックス・ローチとの当時のレギュラー・グループです。