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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第19回 サマータイム



世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


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【第19回】
サマータイム
Summertime
作曲:ジョージ・ガーシュウィン
作詞:デュボース・ヘイワード、アイラ・ガーシュウィン
1935年


ジョージ・ガーシュウィンが『ポーギー』にはじめて出会ったのは1926年のことでした。デュボース・ヘイワードが書いたこの小説は、それまで語られたことのなかったアメリカ南部に住む黒人の生活をリアルに描いたもので、大きな感銘を受けたガーシュウィンは、これを題材にオペラを書きたいとすぐさま作家に手紙を送ります。駆け出しだったヘイワードは、人気作曲家からの依頼を快諾。話はトントン拍子に進むかと思われたのですが…。

しかし、ことはそう簡単ではありませんでした。問題の1つは、『ポーギー』舞台化の話が他からもあったことです。その主は、初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』で主役を務めスターとなっていたアル・ジョルソン。ジョルソンは、これまた当時人気上昇中だったジェローム・カーンとオスカー・ハマースタイン2世を起用して『ポーギー』をミュージカル化しようと画策していたのでした。

もう1つの問題は、当のガーシュウィンが作曲にすぐに着手できなかったこと。すでに〈ラプソディー・イン・ブルー〉を書いていた彼ですが、オペラは未経験で、それを書くためにはまだ勉強が必要だと自分では考えていたのです。業を煮やしたヘイワードは、一時は権利をジョルソンに売り渡そうとも考えたとか。

しかし結局ミューズはガーシュウィンに微笑みます。多忙を理由にカーンたちから断られたジョルソンは舞台化を断念、それによってヘイワードもガーシュウィンに一任する覚悟を決めたのです。かくして1935年、音楽史に残る傑作『ポーギーとベス』は、ようやくその産声を上げることとなります。

『ポーギーとベス』が高く評価されるのは、オペラという西洋文化の精髄にはじめて黒人音楽を持ち込んだ画期性ゆえですが、その前提にあるのは言うまでもなく音楽自体の素晴らしさです。それはまさに名曲の宝庫。その挿入歌の多くは現在もスタンダード・ナンバーして歌い継がれています。

とりわけ有名なのが〈サマータイム〉。序曲に続いて、劇の冒頭で歌われるこの子守歌は、倦怠と諦念、そして一縷の希望が渾然一体となった、まさに傑作中の傑作。黒人霊歌的な敬虔ささえ湛えたその歌詞と旋律は、今も聴く者の心をとらえてやみません。


●この名演をチェック!

エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング
アルバム『ポーギーとベス』(Verve)収録


オリジナルのオペラ版を別にすれば、最も由緒正しい〈サマータイム〉と言えるかもしれません。基本的にガーシュウィンの指示どおりで、エラもルイもことさらに奇をてらったことはしていないのですが、曲の髄をつかみ取ったような歌と演奏は、実に感動的です。
 




エルヴィン・ジョーンズ&リチャード・デイヴィス
アルバム『ヘヴィー・サウンズ』(Impulse)収録


この曲は非常に多くのジャズマンが取り上げていますが、ここではあえて異色なヴァージョンを。ドラムとベースによるデュオで、なかなかおどろおどろしいのですが、あるいはそれは、曲が内包する霊歌的なテイストをデフォルメしたものなのかもしれません。