COLUMN/INTERVIEW

【連載】Sampling BLUE NOTE 第18回 Bobby Hutcherson featuring Harold Land / Ummh


“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


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【第18回】
Bobby Hutcherson featuring Harold Land / Ummh
ボビー・ハッチャーソン feat. ハロルド・ランド / ウム
AL『サンフランシスコ』収録



◆サンプリング例
Galliano / Welcome To The Story (Peace Go With You Brother Remix)
Howie B. / Birth
Photek / The Rain
Madonna / Bedtime Story
Thievery Corporation / 2001 Spliff Odyssey


第6回で『Montara』を取り上げたヴィブラフォン奏者のボビー・ハッチャーソンだが、サンプリング・ソースの観点では『San Francisco』も外せないアルバムである。このアルバムには「Goin’ Down South」、「Ummh」、「Procession」と3曲のサンプリング・ソースがあり、また「Goin’ Down South」はクラブ・ジャズDJからの人気が高い一曲でもあるが、今回はその中の「Ummh」について取り上げたい。

『San Francisco』はボビー・ハッチャーソンが1970年代に入って初めて録音したアルバムで、レコーディングは1970年7月15日、リリースは1971年5月となる。ロサンゼルス出身のハッチャーソンは1963年に『The Kicker』で<ブルーノート>からレコード・デビューし、その<ブルーノート>の創業地であるニューヨーク及びイースト・コーストを拠点に活動していた。しかし、1970年代に入ってからは故郷のカリフォルニアに戻り、そして録音したのが『San Francisco』である。タイトルにもそうしたウエスト・コーストへの想いが詰まっている。

そして、『San Francisco』のもうひとつ重要な点は、サックス奏者のハロルド・ランドとの連名で録音を行っていることだ。ランドは生まれこそテキサスだが、ずっとサンディエゴやロサンゼルスなどウエスト・コーストで育ってきた。クリフォード・ブラウンとマックス・ローチの楽団はじめ、ロイ・エアーズ、ドナルド・バード、ヴィクター・フェルドマンらいろいろなアーティストと共演し、自身でもリーダー作を多数リリースしているが、1960年代にニューヨークで活動していた時期があり、そうした中でハッチャーソンと出会い、彼のレコーディングにも参加するようになる。

ハッチャーソンとランドの初共演作は1968年の『Total Eclipse』で、『San Francisco』は通算5度目の共演作となる。当時のハッチャーソンにとってランドは盟友的な存在であり、同時に地元カリフォルニアの頼れる先輩だった(ランドはハッチャーソンの13歳年長)。

『San Francisco』はハッチャーソンとランドが地元ロサンゼルスでリラックスして録音に臨んだ一枚で、彼らをサポートするのはジョー・サンプル(ピアノ、エレピ)、ジョン・ウィリアムズ(ベース)、ミッキー・ローカー(ドラムス)。

ジョー・サンプルはランドと同じくテキサス出身で、ジャズ・クルセイダーズを結成してからはロサンゼルスを拠点としていた。彼にとって『San Francisco』はジャズ・クルセイダーズが終わり、新たにザ・クルセイダーズとして再出発する時期の録音にあたる。そして、サンプルは単なるバック演奏にとどまらず、「Goin’ Down South」と「Jazz」を作曲・提供するなどハッチャーソンとランドに影響を与えた。『San Francisco』におけるフュージョンの走りとも言えるクロスオーヴァーな音楽性はその表われでる。

「Ummh」はハッチャーソンの作曲で、グルーヴィーなブルース・ロック風味のナンバーである。冒頭でサンプルのエレピが不穏な唸りを見せ、楽曲がスタートしてからはファンキーで歪んだリフレインに乗せて、ハッチャーソンとランドが交互にソロをとっていく展開。ランドのテナー・サックスはエモーショナルだが、どっしりと太くパンチの効いた演奏で、一方ハッチャーソンのヴィブラフォンはクリアで軽やかなタッチ。アルバム・ジャケットのお互いを見つめながら微笑むハッチャーソンとランド、そんなふたりの対峙する姿が目に浮かぶような演奏である。

Bobby Hutcherson featuring Harold Land / Ummh



「Ummh」をサンプリングした曲にはアイス・キューブやビースティー・ボーイズなどヒップホップはもちろんあるが、興味深いのはUKのアシッド・ジャズやトリップ・ホップ、ドラムンベースなどで使用例がいろいろ見られる点だ。通常のヒップホップ・ネタとは異なる美意識やセンスが「Ummh」にあるということだろう。

ガリアーノの「Welcome To The Story (Peace Go With You Brother Remix)」(1990年)、ハウイーBの「Birth」(1994年)、フォーテックの「The Rain」(1994年)がその例だが、これらは全て冒頭のエレピのアブストラクトなフレーズを用いている。ハウイーBは当時のUKのトリップ・ホップ~アブストラクト・ヒップホップの旗手のひとりで、トリッキーのようなブリストル・サウンドもプロデュースしている。ドラムンベース・シーンにおいてフォーテックもシュールで前衛的、実験的な作風により孤高の存在だった。

Galliano / Welcome To The Story (Peace Go With You Brother Remix)



Howie B. / Birth



Photek / The Rain



ほかにもマドンナが「Bedtime Story」(1994年)で用いているが、この曲のプロデューサーはマッシヴ・アタックの前身のワイルド・バンチのメンバーで、その後ジャジーBとソウルIIソウルを結成するネリー・フーパー。彼はハウイーBとも親交が深く、ソウルIIソウル、ビョークなどで一緒に仕事をしている。「Bedtime Story」でも「Ummh」の冒頭のエレピ・フレーズが用いられ、ハウイーBとネリー・フーパーのラインが確実に感じられる。

Madonna / Bedtime Story



また、USのアーティストであるが、シーヴェリー・コーポレーションもUKのトリップ・ホップやダブの影響下にあるアーティストで、彼らの「2001 Spliff Odyssey」(1996年)も同様のアプローチで冒頭のエレピ・フレーズをサンプリングしている。

Thievery Corporation / 2001 Spliff Odyssey