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【連載】Sampling BLUE NOTE 最終回 Herbie Hancock / Oliloqui Valley


史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


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【最終回】
Herbie Hancock / Oliloqui Valley
ハービー・ハンコック / オリロクィ・ヴァレー
AL『エンピリアン・アイルズ』収録



◆サンプリング例
Eric B. & Rakim / Untouchables
Simple E / Play My Funk
Quasimoto / Jazz Cats Pt. 1


このコラムは今回で最終回となるが、締めを飾るにふさわしいアーティストとしてひとり大物が残っていた。ハービー・ハンコックである。ここでそのキャリアや功績について語る必要もないほど知られた人物であるが、<ブルーノート>はそんなハンコックの出発点である。

1962年に『Takin’ Off』でソロ・デビューを飾り、「Watermelon Man」のヒットですぐさまトップ・プレイヤーの仲間入りを果たすなど順調なキャリアを積んでいくハンコック。続く1963年の『My Point Of View』で評価を決定づけると共に、マイルス・デイヴィスのグループへ参加し、ミュージシャンとしてより多くのものを吸収していく途上にあった。

そうした中でマイルスの影響からモード・ジャズを追求し、ラテン系のミュージシャンと組んだ『Inventions & Dimensions』の次にリリースした4枚目のアルバムが『Empyrean Isles』である。

録音日は1964年6月17日で、時期的にはハンコックも同行したマイルス・デイヴィスの初来日公演の1か月ほど前となる。当時のマイルス・クインテットと録音メンバーも重なり、ロン・カーターとトニー・ウィリアムスがリズム・セクションを務める。そして、『Takin’ Off』でも共演したフレディ・ハバードが再び参加するというワンホーン・カルテットでの録音。

当時のハンコック、ハバード、ウィリアムスら気鋭の若手ミュージシャンを指して新主流派いう言葉が用いられたが、『Empyrean Isles』と続く『Maiden Voyage』はハンコックにとって新主流派時代を代表するアルバムである。

演奏スタイル的にはポスト・ハードバップであるモード・ジャズを発展させると同時に、この時代に一方で大きくなっていたフリー・ジャズを意識した部分も感じられる。スタイリッシュなモード・ジャズの「One Finger Snap」、やや難解で抽象的な演奏の「Egg」がある一方、8ビートのジャズ・ロック調の「Cantaloupe Island」も収録する。

アルバム全体としては『Maiden Voyage』の方が傑作として名高いが、「Cantaloupe Island」は「Watermelon Man」に次ぐハンコックの代表曲としてその名を刻まれる。サンプリング・ソースとしてもUs3が使用したことで広く知られているだろう。

Herbie Hancock / Cantaloupe Island



Us3 - Cantaloop (Flip Fantasia)



その「Cantaloupe Island」ほど有名ではないが、「Oliloqui Valley」ももうひとつのサンプリング・ソースだ。重厚なロン・カーターのベース・ラインに導かれる神秘的なイントロダクションから、ハバードのコルネットがパっと灯りが点灯するように入ってきて、鮮やかなメロディを奏でていく瞬間は背筋がゾクゾクするようなカッコよさだ。

アルバム全体でハバードはトランペットではなくコルネットを演奏しており、そのふくよかで円やかさを感じさせる音色がひとつの鍵となっている。ウィリアムスのドラムがアクティヴに動いていく中でカーターのベースにもソロで見せ場があり、ハンコックのピアノ・ソロもメランコリックで幻想的な味わいでいいのだが、どちらかと言えばこの曲の主役はハバードのような印象である。

Herbie Hancock / Oliloqui Valley



この「Oliloqui Valley」をサンプリングした楽曲には、1980年代後半から1990年代初頭のヒップホップ黄金時代を築いた立役者の一組であるエリックB&ラキムの「Untouchables」(1990年)、女性ヒップホップ/R&BシンガーであるシンプルEの「Play My Funk」(1993年)、マッドリブの変名でコミカルなプロジェクトであるカジモトの「Jazz Cats Pt. 1」(2000年)の3曲がある。

「Untouchables」はまずカーターのベース・ラインに着目し、それを思いっきりテンポ・アップしてループさせてビートを作っている。「Play My Funk」は基本的に「Oliloqui Valley」の進行をそのままなぞり、ベース・ラインに導かれてコルネットやピアノが入り、シンプルEのコーラスやラップが続いていく展開。ギターの音を別のところから引っ張ってきて、「Oliloqui Valley」のソースにうまく結びつけている。

Eric B. & Rakim / Untouchables



Simple E / Play My Funk



「Jazz Cats Pt. 1」は歌詞にサン・ラーやジョージ・ベンソンなどさまざまなジャズ・ミュージシャンが登場するナンバーで、その中にはハンコック、ハバード、カーターの名前もある。「Oliloqui Valley」をサンプリングした箇所では、ハバードとカーターのプレイに合わせて彼らの名前がタイミングよくラップされるという心憎い演出だ。ジャズ・レジェンドたちへの尊敬の念に溢れたナンバーである。

Quasimoto / Jazz Cats Pt. 1