COLUMN/INTERVIEW

【特集】2021年、私の愛聴盤 ~ 原田和典

毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚のご紹介。
第三回目は、音楽ライター/ジャーナリストの原田和典さんです。

文:原田和典


ジョン・バティステ『ウィー・アー』 (Verve)


ジェイムズ・フランシーズ『ピュアレスト・フォーム』 (Blue Note)


竹村一哲『村雨』 (Days of Delight)


傑作ベスト3とかではなく、愛聴盤ベスト3というテーマが素敵だと思った。好きで、気に入って、繰り返し聴いて、その都度「おゝいいなあ、あゝかっこいい」と思ってきたものをサクッとすくいあげる行為は実に楽しい。それに、一度聴いただけの作品を誰も愛聴盤とは呼ばない。

ジョン・バティステの『ウィー・アー』は、とにかくよく聴いた。緊急事態宣言があったり胸が痛むニュースに出くわしたり不条理をつきつけられると、このアルバムを頓服した。なんて暖かで、風通しの良い音世界なのかと思う。ジョンは、ネヴィル一家やマルサリス一家と並ぶニューオリンズの代表的音楽一家であるバティステ・ファミリーの俊英。短期間だと思うがロイ・ハーグローヴ・クインテットのピアニストを務めたこともあり、昨年末に日本でも公開されたピクサー映画『ソウルフル・ワールド』ではジャズ・パートの音楽ディレクションも務めていた(ヴィレッジ・ヴァンガードで収録された2部作『Anatomy Of Angels』と『Chronology Of A Dream』もすがすがしくポップなアコースティック・ジャズの快演だった)。そのジョンが、ジャズやニューオリンズのブラスバンドへの敬愛を下地に、シンガー・ソングライターとしての魅力も大いに発揮しながら『ウィー・アー』の間口の広い音楽世界をつくりあげた。

「ショウ・ミー・ザ・ウェイ」は、さしずめ音の銀河鉄道だ。ファルセットによる冒頭のリフレインに導かれたら、あとは乗り込んで、乗り物(音)ごと高く高く上昇していくのみ。エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、スティーヴィー・ワンダーらレジェンドたちの名前を歌詞に盛り込みながら“夢中になるっていうのは 本気で 何かを好きになるってことさ”と歌うジョンの凛々しさよ。このフレーズに接した途端、ぼくは、かまやつひろしがタワー・オブ・パワーと組んだ「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」が並走している風景をみる。夢中になって、何かに凝ってこそ、ひとは生を実感できるのではなかったか。なお『ウィー・アー』には、曲順を大きく入れ替え、さらに新曲を加えた“デラックス・エディション”も存在する。

 


2021年のMVPジャズ・ミュージシャンは誰だろう? 百人に訊けば百通りの答えが返ってきそうだ。が、よほどのヘソ曲がりでもジェイムズ・フランシーズの獅子奮迅ぶりには一目置かざるをえないと断言しよう。パット・メセニーの“サイド・アイ”、クリス・ポッターの“サーキッツ・トリオ”といったベースレス・ユニットでも圧倒的な光を放つ、おそらくクレイグ・テイボーン以来となる、左手と右手が猛烈にせめぎ合うキーボード・マスターである。ブルーノート・レコーズからのセカンド・アルバム『ピュアレスト・フォーム』は、バンド全体の響き方を俯瞰するかのようなクールな視点と、岩をも砕くような鍵盤さばきの両方を満喫できる一枚。「アイズ・ワイド・シャット」におけるビラルの声ときたら“これこそ彩り豊かなヴォーカリゼーションの最たるもの”という感じで喉の奥に七色の虹が見える。

 


アンダー・コロナになってから、日本のジャズ・ミュージシャンの音楽に接する機会がさらに増えた。なかでも竹村一哲の『村雨』には血が騒いだ。共演者は井上銘、魚返明未、三嶋大輝。磨き抜かれた技の応酬に、勢いやエキサイトメントが加わって沸騰する。キース・ジャレットの楽曲「スパイラル・ダンス」における躍動感をどう表現しよう。目いっぱいアドリブを盛り込んで突進するモダン・ジャズの快感を、改めて差し出されたような気分だ。

“いっぱい聴いたアルバム”ということで、どうしても前半期の発表作品に偏ってしまったが、後半期リリースのアイテムにも末永くつきあっていけそうなものは多々ある。皆様がそれぞれの愛聴盤と共に素敵な年末年始を過ごされることを心から願う。