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【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.15】 Stanley Turrentine / Rough ’N Tumble

Stanley Turrentine / Rough ’N Tumble


(文:原田 和典)

1960年代のブルーノート・レコーズは50年代以上に多士済々、なかでもテナー・サックス部門の充実ぶりには鳥肌が立つほどだ。現在のジャズ・サックス界にも絶大な影響を与える鬼才ウェイン・ショーターやジョー・ヘンダーソンがジャズ界に新風を吹き込んだのも、サム・リヴァースが極めて冒険的な創作を連発したのも、しばらく表舞台から遠ざかっていた大御所デクスター・ゴードンが鮮やかに再生したのも、すべてブルーノートという場があったからと言い切りたくなる。またドン・ウィルカーソンやフレッド・ジャクソンは、リズム・アンド・ブルース(R&B。ここではざっくりと、アフリカ系アメリカ人歌謡曲と解釈していただきたい)とジャズの間にガッチリ橋をかけて、即興演奏の妙で唸らせるよりも“お客さんに踊って、楽しんでもらうことが生きがい”的大衆路線を邁進した。モードも前衛もファンキーも主張するサラダボウル、だからブルーノートは面白いのだ。

本稿の主人公、スタンリー・タレンタイン(タレンティーン)も忘れてはならない“ブルーノートっ子”である。芸風は実に大衆的、だがアーティスティックな方面に難なく寄せることもできる。60年4月からトランペット奏者ディジー・リースやオルガン奏者ジミー・スミスのリーダー・セッションに参加し、6月にリーダー作『ルック・アウト』を録音。70年にCTIレコーズに移籍するまでちょうど10年間、ブルーノートの看板アーティストのひとりであり続けた。ブルーノート創設者アルフレッド・ライオンにとっても特別の存在だったのか、スタンリーがオルガン奏者シャーリー・スコットと結婚式を挙げた時には介添人を務めたとも伝え聞く。ライオンは67年にブルーノートを離れて引退生活に入るが、その最後のセッションでリーダーを務めたのもスタンリーである(7月28日。CD『リターン・オブ・ザ・プロディガル・サン』に収録)。



『ラフ・ン・タンブル』は、ライオン引退前年の66年7月1日に録音された。タイトルは“無鉄砲”という意味。レコーディングされても必ずしも即リリースといかないのがブルーノートのパターンだが、こちらについては「ビルボード」の同年10月29日号に広告が掲載されているから、驚くほど順調に発売への道を進んだことがわかる(ちなみに、広告をわけあう一枚、ドナルド・バード『フリー・フォーム』は61年12月録音)。「ビルボード」67年1月7日付R&Bチャートでは20位まで上昇。1位テンプテーションズ、2位フォー・トップス、4位スモーキー・ロビンソン&ミラクルズ、7位スプリームスと、モータウン・レコーズのヴォーカル・グループが席巻する中、ジャズ・サックス奏者のスタンリーが奮闘していたことが伝わる。



A面オープニングを飾る「アンド・サティスファイ」はナンシー・ウィルソンが歌った曲で、続く「ホワット・ウッド・アイ・ドゥ・ウィズアウト・ユー」(ジャケット裏やレーベル面には“Would”ではなく“Could”と記されている)はレイ・チャールズが1956年に発表したバラード。「フィーリング・グッド」はニーナ・シモン、最近ではローリン・ヒルやジョン・レジェンドも取り上げたナンバーだ。盤をB面に裏返すと「シェイク」は64年末に射殺された伝説的R&Bシンガーであるサム・クックの遺作、「ウォーク・オン・バイ」はディオンヌ・ワーウィックの歌唱が65年のグラミー賞で「最優秀リズム・アンド・ブルース・レコーディング」賞にノミネートされたことでも知られる。つまり、以上のレパートリーは、すべて歌ものだ(ヴォーカリストのために作られた楽曲)。しかも各面のオープニング・ナンバーは、いわゆる“サビつきブルース”(ワン・コーラスがAABA形式で構成され、Aの部分がブルース・コードになっている)。ラストの「バプティスマル」はトランペット奏者のジョン・ハインズ(録音には不参加)が書いた曲で歌詞はつけられていないようだが、“洗礼”というタイトルが示す通りの曲調だ。



スタンリーをソロ・シンガーに、ホーン・アンサンブルをクワイア(合唱団)に見立てたかのようなデューク・ピアソンの編曲も卓抜そのもの。「なるほど、これはR&B好きにアピールしたわけだ」とうなずかずにはいられない、グルーヴ感満載の全6曲に、ひたすら体が揺れる。ジェイムズ・スポールディングがアンサンブル参加のみなのが残念とはいえ、グラント・グリーン、ブルー・ミッチェル、マッコイ・タイナー、ペッパー・アダムスは決して多くないソロ・スペースでも十分に個性を発揮、ボブ・クランショウもコントラバスとエレクトリック・ベースを持ち替えて生き生きしたリズムを送り出す。ところで筆者の知る限り、このアルバムが国内盤LPとして市場に並んだことは一度もない。2010年に出たCDが、日本における本作の初プレスであろう。今回、米国ブルーノートが誇る“トーン・ポエット・シリーズ”の一枚として新装発売された『ラフ・ン・タンブル』は、未発表フォト満載のコーティング・ダブル・ジャケットに、ケヴィン・グレイのマスタリングが施された180グラムの重量盤LPを収納という、手にするだけで心はずむ仕上がり。針をおろせば、まるで先日録り終えたばかりのような鮮度たっぷりの音が再生される。このリリースを機に、『ラフ・ン・タンブル』への認知度が一気に高まることを切望したい。




(作品紹介)
Stanley Turrentine / Rough ’N Tumble

発売中
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