WHAT’S NEW

日本が世界に誇る最強のビッグバンド。 小曽根真 featuring No Name Horsesの凄さを改めて考える。


小曽根真を中心に2004年に結成された総勢15名のビッグバンド、No Name Horses。メンバーは、いずれも自身のバンドでリーダーを務める日本を代表するジャズ・ミュージシャンながら不定期で活動を続け、これまでに6枚のアルバムを発表。日本だけでなく海外でも積極的に公演を行ってきた。長年の信頼関係に基づいた高度なアンサンブル、小曽根を中心とするメンバーの多彩なオリジナル曲、そして尽きない創造性と遊び心――。そんな世界でも類を見ないビッグバンドとなった彼らの真髄が存分に味わえる初のベスト・アルバム『THE BEST』が6月8日にリリースされた。それを機に、No Name Horsesの魅力をジャズ評論家の藤本史昭氏が解説する。

文:藤本史昭

No Name Horses(以下NNH)の演奏を初めて聴いた時の衝撃は今でも忘れられない。2004年、伊藤君子のアルバム『一度恋をしたら』のために、小曽根真の呼びかけで臨時編成されたこのビッグバンドは、メンバー全員がリーダー・レヴェルという強力なラインナップと、その面々だから実現できる独自の表現で、ジャズ・ファンに大きな驚きと喜びをもたらしたのだった。

ではその独自性とはなんだったか。もっとも大きいのは、このバンドが、形態はビッグバンドであっても、方法論やスピリットとしてはコンボ的な行き方――すなわち各人のソロやインタープレイを重視していた、という点だろう。むろんスコア、それも歴戦の強者たちが悲鳴を上げるような難易度を有したスコアは、土台にある。だが小曽根と彼の意志を共有したメンバーたちは、そのスコアを単にミスなく精密に演奏することよりも、それを跳躍台として、“今まさに音楽が生まれている”という初発性の発露を第一義としていたように思えるのだ。

そういう特徴は、バンド単体として活動するようになってからはより一層顕著になる。とりわけライヴでは、スコアに記していないその瞬間の小曽根の閃きが即興的に音化されるという、“ビッグバンドにあるまじき”場面がしばしば出現するようになった。さすがにCDではそういう突発的なハプニングは減ぜられるが、その分ソリストのパフォーマンスの凝集力は目に見えてアップする。かつてデューク・エリントンは、ジョニー・ホッジスやベン・ウェブスターといったバンドの花形スターが活きるよう曲を書いたが、NNHにも同様のことが見受けられるのだ。いわゆる、当て書きだ。「小曽根さんの曲はどれも、メンバーのいいところが発揮できるように書いてある」とはエリック・ミヤシロの証言だが、これもまたこのバンドの大きな魅力の1つだといえよう。

また、NNHのレパートリーはリーダー小曽根の手になるものがメインだが、一方でメンバーのオリジナルも積極的に取り上げられる。中川英二郎、エリック・ミヤシロ、岡崎好朗、池田篤、三木俊雄…いずれ劣らぬ名コンポーザーたちの作品はどれも優れて個性的で、アルバムやコンサートの中に挿入されると、鮮やかなアクセントやコントラストを描き出す。さらに2019年の『アンティル・ウイ・ヴァニッシュ 15x15』では、従来のジャズの枠から飛び出し、ロックやファンクにまでその領域を拡大してみせた。こういった、楽曲のヴァリエーションの豊富さ、斬新さもNNHならではである。

 


…というようなことがすべて、2枚組セットのアルバムに詰め込まれたのがバンド初のベスト盤『THE BEST』だ。『Back at the Club』『ROAD』を除く4枚から厳選された13曲と、新たに録音された3曲を収録したこの作品を聴けば、聴き手は18年間のNNHの歩みを俯瞰的に体験することができる。そしてそこでは、時間の流れから生じたバンドの変化も露わになる。

特に僕が感じたのは、長年の活動によるバンド精度の錬磨に伴ってグルーヴがより強化され、その結果として音楽の訴求力と伝播力、浸透力がさらに増してきている、ということだ。たとえば新録の「The Puzzle」。変則的なリズムが文字通りパズルのように入り組んだ難曲であるが、しかし聴き手はその難解さに脅かされることなく演奏が発散する楽しさに身を委ねることができる。

 


その逆のパターンが、やはり新録の「Noreen’s Nocturne」だ。ここでは、表向きは作曲者であるオスカー・ピーターソンならではのフレンドリーなテイストを踏襲しながら、その実楽器をたしなむ人ならば目が点になってしまうとんでもないアレンジが施してある。難しいことを難しく感じさせない、けれどその道のプロが聴けばその高度さに腰を抜かす…NNHはデビュー当時からそういう、10人の聴衆がいれば10人全部を満足させる全方位的ベクトルを持った演奏を旨としてきたが、18年という時間はその志向性により磨きをかけてきているよう感じられる。

 


名無し馬たち(しかし今では皆、名無しどころが名馬だが)の爆走は、どうやらまだまだ続きそうだ。

 
 

 




【リリース情報】

小曽根真 featuring No Name Horses
『THE BEST』
2022年6月8日(水)発売
SHM-CD仕様 2CD:UCCJ-2209/10 \3,850(税込)
https://store.universal-music.co.jp/product/uccj2209/

Disc 1
1. ザ・パズル (新録音)
2. イントゥ・ザ・スカイ
3. タイム・スレッド
4. ミヤビ
5. スリー・ウィッシズ
6. カーネイ
7. ノリーンズ・ノクターン (新録音)
8. ノー・シエスタ

Disc 2
1. トイル&モイル
2. オーケー、ジャスト・ワン・ラスト・チャンス!
3. ATFT
4. アイ・トライ・トゥ・イマジン
5. ミッドナイト・コール
6. ラ・ベルダ・コン・ロス・カバジョス
7. キャロッツ・オア・ブレッド?
8. ラ・フィエスタ (新録音)

新録曲クレジット
小曽根真(p, Fender Rhodes)
No Name Horses:
エリック・ミヤシロ、木幡光邦、奥村晶、岡崎好朗(tp)
中川英二郎、半田信英(tb)  山城純子(btb)
近藤和彦、池田篤(as)  三木俊雄、岡崎正典(ts) 岩持芳宏(bs)
中村健吾(b) 高橋信之介(ds)
★2022年3月8日、東京、ソニー・ミュージックスタジオにて録音


【コンサート情報】
全国ツアー
小曽根真 featuring No Name Horses
〜THE BEST〜
2022年
6月16日(木)、17日(金) 東京:ブルーノート東京
(問)ブルーノート東京 03-5485-0088
6月18日(土) 東京:府中の森芸術劇場 どりーむホール
(問)チケットふちゅう 042-333-9999
6月21日(火) 熊本:熊本県立劇場 演劇ホール
(問)熊本県立劇場 096-363-2233
6月23日(木) 福岡:福岡サンパレス ホテル&ホール
(問)ヨランダオフィス・チケットセンター 0570-033-337
6月24日(金) 大分:iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
(問)iichiko総合文化センター 097-533-4006
6月25日(土) 山口:山口市民会館 大ホール
(問)山口市民会館 083-923-1000
6月26日(日) 広島:東広島芸術文化ホールくらら
(問)東広島芸術文化ホールくらら 082-426-5990
6月30日(木) 福井:ハーモニーホールふくい
(問)ハーモニーホールふくい 0776-38-8288
7月1日(金) 愛知:刈谷市総合文化センター アイリス
(問)刈谷市総合文化センター 0566-21-7430
7月2日(土) 三重:三重県総合文化センター 三重県文化会館
(問)三重県総合文化センター 059-233-1122
7月3日(日)  兵庫:川西市キセラホール
(問)みつなかホール 072-740-1117

小曽根真クリスマス・ジャズナイト2022
12月21日(水)、22日(木) 19:00 東京:Bunkamuraオーチャードホール
(問)Bunkamura 03-3477-9999
2023年
2月5日(日) 15:00 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
(問)かつしかシンフォニーヒルズ 03-5670-2233
2月10日(金) 19:00 大阪:フェニーチェ堺
(問)フェニーチェ堺 0570-08-0089
2月11日(土) 17:00 兵庫:アクリエ姫路 中ホール
(問)アクリエ姫路 079-263-8082
2月12日(日) 15:00 奈良:大和高田さざんかホール
(問)大和高田さざんかホール 0745-53-8200

小曽根真 オフィシャル・サイト:
http://makotoozone.com/
小曽根真 featuring No Name Horses オフィシャル・サイト:
https://makotoozone.com/no-name-horses.html
ユニバーサルミュージック 小曽根 真サイト:
https://www.universal-music.co.jp/makoto-ozone/