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【ライヴ・レポート】桑原あいがデビュー10周年記念作のためにライヴ・レコーディングを敢行!


文:佐藤英輔
写真:垂水佳菜

桑原あい ザ・プロジェクト
Recording Tour 2022 "The Live Takes"
7月2日(土) ブルーノート東京にて開催


<Recording Tour 2022 “The Live Takes”>と題された、桑原あい ザ・プロジェクトのライヴを南青山・ブルーノート東京で観た。彼女の次作は、その一環で録音したべスト・テイクをまとめたものになるという。

ザ・プロジェクトと名付けられたトリオのリズム・セクションは、ダブル・ベースの鳥越啓介とドラムの千住宗臣。前線テクノの鋭敏さを1ホーンの生ジャズ・トリオで求めたPHAT(2000年代前半にブルーノート・レーベルから2枚のアルバムを出した)のメンバーだったこともある鳥越はときにエフェクターもかける音でサウンド総体を盛り立て、特に弓弾き演奏の際にそれは効果を発揮する。

 


一方、千住はBOREDOMS、山本精一PARAやCOMBOPIANOなどオルタナティヴな表現に過去いろいろ関わってきた実力者であり、ここでは瞬発力に長けた演奏で場を整える。桑原の2018年作『To The End Of This World』はこのザ・プロジェクトを基本単位とし、様々なゲストを迎えた内容だった。

 


そんな3人によるアルバム作りのためのライヴだが、用意された楽曲がおもしろい。桑原が2014年に発表したオリジナル「イントゥー・ザ・フューチャー・オア・ザ・パスト?」以外はどれも他者の曲であり、その多様さが興味を引く。

まずオープナーとして演奏されたのは、デューク・エリントンの1963年曲「マネー・ジャングル」。鳥越が繰り出す太いリフで始められたこの曲はザ・プロジェクトの活動当初から取り上げられており、この3人が重なる意義を明快に著す爽快な迸りを持つ。

 


また、3曲はロック曲。うち1曲はこの晩が初演であるという、デヴィッド・バーンが率いたトーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」。だが、彼女による説明がなかったら途中まで、あの1977年曲と気づく人は少なかったのではないか。日常の恐怖からの逃避が歌われる同曲を彼女たちは凝った仕掛けを施し披露する。

さらに、ザ・ヴェルヴェッド・アンダーグラウンドの1969年曲「ペイル・ブルー・アイズ」やザ・ローリング・ストーンズの1967年曲「シーズ・ア・レインボー」といった有名曲も変幻自在に紐解かれる。その山あり谷ありの変容のさせ具合は、奇想天外なロック曲カヴァーで好評を博した米国ピアノ・トリオであるザ・バッド・プラスを思い出させる部分もあるか。

 


また、桑原のメンターであるクインシー・ジョーンズが1974年に発表したベナード・アイグナー作の人気ソウル曲「エヴリシング・マスト・チェンジ」はソロ・ピアもから始まり、途中からブルージーな弾き味がアピールされた。

そうした一方、バーンスタインによる1957年ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』収録の「クール」、そして1875年初演のビゼーのオペラ『カルメン』内曲の「ハバネラ」も創意と機微たっぷりに3人は演奏する。ジャズもあれば、ロックもソウルもクラシック流れの曲もあり。だが、3人によるその演奏群は何が素材だろうと、共感とともに音を重ねることができれば今の私たちのジャズ曲になると宣言しているようにも、ぼくには感じられた。

 


アンコールでは、ジョニ・ミッチェルの「青春の光と影 (Both Sides, Now)」をソロ・ピアノで披露する。スタン・ゲッツやダイアン・リーヴス、ハービー・ハンコック他が取り上げジャズの担い手からも人気の曲だが、30歳になってやっと歌詞が理解できるようになったので取り上げてみた、とのこと。原詩を噛み締めるように、また他方では今の桑原の心持ちを自在に解き放つかのように、彼女はピアノ音を会場内に舞わせた。

 


それから、ときに入れる桑原のMCがとても弾けていたのも印象的だった。それは、レコーディングを兼ねる実演がうまく進んでいるという手応えが露になったものか。前作『オペラ』はクラシック用のホールを貸し切り、張り詰めたなかで自己と向き合いピアニストとして越えるべき山であるソロ・ピアノ表現に鋭意望んだ一作だった。そして、この晩は信頼できる仲間たちとやんちゃにしてスリリングなやりとりがストーリー性豊かに繰り広げられた。<その曲本来の魅力>と<桑原の曲への思いや伸長するジャズ感覚>が、自在に交錯するこの一連のライヴがソースとなる新作が楽しみでしょうかない。


【リリース情報】

桑原あい『Opera』
2021年4月7日(水)発売
SHM-CD:UCCJ-2189 \3,300(tax in)
https://jazz.lnk.to/AiKuwabara_Opera

1. ニュー・シネマ・パラダイス
2. リヴィン・オン・ア・プレイヤー
3. レオノーラの愛のテーマ
4. ロロ
5. ワルツ・フォー・デビイ
6. 星影のエール
7. ゴーイング・トゥ・ア・タウン
8. ミスハップス・ハプニング
9. エヴリシング・マスト・チェンジ
10. ザ・バック
11. デイドリーム・ビリーヴァー

桑葉あい公式サイト: http://aikuwabara.com/
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