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【NEWEST ECM Vol.23】 Gard Nilssen Acoustic Unity / Elastic Wave

Gard Nilssen Acoustic Unity / Elastic Wave


文:原 雅明

 ノルウェー出身のドラマー、ガール・ニルセンは、20年近くのキャリアの中で様々なバンドやプロジェクトに参加してきた。ジャガ・ジャジストのラーシュ・ホーントヴェットと結成したアムガラ・テンプルのようにロック寄りのアプローチもすれば、ポーランドのサックス奏者、マチェイ・オバラのバンドでは繊細なジャズのドラミングに徹する。間違いなく、現在のヨーロッパで最も注目されるドラマーの一人だが、近年は特にソロのプロジェクトでの活動が目立っている。

 2020年には、16人編成のビッグバンドであるスーパーソニック・オーケストラのデビュー作『If You Listen Carefully The Music Is Yours』をリリースした。ニルセンを含め3名のドラマーと3名のコントラバス奏者を擁するユニークな編成で変幻自在なリズムを刻み、サン・ラーやジョン・コルトレーン、チャールズ・ミンガスのアンサンブル、フェラ・クティのアフロビートを内包したダイナミクスと豊かな音の響きのある世界を創出した。そして、このビッグバンドにも参加していた同郷のサックス奏者、アンドレ・ロリゲテンとスウェーデン出身のベーシスト、ペッター・エルドと組んだアコースティック・ユニティは、ニルセンのメインとなるトリオである。本作『Elastic Wave』はその4枚目にして、ECMデビュー作だ。



 アコースティック・ユニティは、アコースティック・ジャズに徹するが、それはポストバップや初期のフリージャズの熱気を孕んでいる。特にオーネット・コールマンを想起させる演奏は、このトリオの特徴の一つだ。ロリゲテンはフリー系のサックス奏者として知られ、オーネットのタイトルから採ったグループ、フレンズ・アンド・ネイバーズを組んで、60年代から70年代にかけてのフリージャズと現代的なメロディーをかけ合わせている(ロリゲテンたちはメロディック・フリージャズと呼ぶ)。一方、エルドはニルセンとの活動やキッド・ダウンズの『Vermillion』などでベーシストとして評価が高いが、作曲家としても活動している。エリック・ハートランドやリチャード・スペイヴンらドラマーにフォーカスしたアルバム『Projekt Drums vol.1』や自身のバンド、コマ・サクソ(Koma Saxo)での、現代的なリズム体系とアンサンブルの斬新なアプローチで注目されている。



 そして、アコースティック・ユニティでのニルセンは、ジャズ・ドラマーの系譜を辿るように様々な影響を演奏に反映させる。「Lokket til Jon, og skjerfet til Paul」の曲名は、ECMと縁の深いドラマー、ヨン・クリステンセンとポール・モチアンから付けられたものだが、クリステンセンの使っていたシンバルを、南仏ペルヌ・レ・フォンテーヌのスタジオ・ラ・ビュイッソンヌに持ち込み、セカンドシンバルとして自分のドラムセットに組み入れてサウンドを融合させた。また、モチアンが同スタジオに置いていったスカーフが、バスドラムのミュートのために使われた。この曲ではブラシを使ったシンバルワークがサウンドの背景を作っているのが印象的だ。対照的に「Influx Delight」では、オーネットのバンドでのエド・ブラックウェルのように手数の多いドラミングを展開する。



 シンプルなトリオながら、『Elastic Wave』の演奏はヴァリエーションに富む。ロリゲテンがクラリネットを吹く「Dreignau」では、ジャズドラムから解放されたパーカッシヴで流れるような演奏が聴ける。ロリゲテンがラサーン・ローランド・カークばりにテナーとソプラノ・サックスを同時に吹く「The Other Village」は、地中海周辺で聴かれるバグパイプの旋律からインスピレーションを得ているという。ロリゲテンはバス・サックスも演奏していて、ラストの「The Room Next To Her」はその重厚な響きが支配する。



 アルバムで最もストレートな躍動感がある「Boogie」には、ロリゲテンがフレンズ・アンド・ネイバーズで演奏するメロディックな展開や、エルドがアンサンブルで追求するリズムが反映されている。ちなみに、『Projekt Drums vol.1』では、エレクトロニック・ミュージックのプロデューサー、デイデラスの楽曲をいくつかの楽器に分解してアンサンブルとして再構成し、ドラムはニルセンが叩いていた。また、あらゆるところに侵食してくるエレクトロニック・ダンス・ミュージックへのささやかな抵抗として曲名を付けたという「Acoustic Dance Music」は、オーネットのハーモロディック・ファンクから、このトリオならではの有機的なグルーヴやダイナミクスを発展させたような演奏だ。



 アコースティック・ユニティの音楽は、モダンジャズのスタイルをシャッフルして、楽器の特性や機能を最大限に拡張することで生み出されている。前作『To Whom Who Buys A Record』のプレスで、ニルセンはこう語っていた。

「アコースティックのラインナップの場合、楽器が提供する音やテクスチャーの全範囲を活用することができる。ニュアンスを引き出すことができるのだ。アンドレとペッターはその方法を知っていて、常に新しい演奏方法を探っている。とても刺激的で、一緒に演奏するたびに、僕はより良いミュージシャンになることができる」

 『Elastic Wave』からは、このトリオの関係性がさらに深まり、演奏を発展させていることを感じ取れる。アコースティック・ユニティはジャズのベーシックなフォーマットの中で、いま最もスリリングな演奏をしているバンドの一つだ。


(作品紹介) 
Gard Nilssen Acoustic Unity / Elastic Wave

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