COLUMN/INTERVIEW

ビッグバンド・ジャズの新たな流れ、ブッチャー・ブラウン最新作 Butcher Brown Presents Triple Trey featuring Tennishu and R4ND4ZZO BIGB4ND

Butcher Brown Presents Triple Trey featuring Tennishu and R4ND4ZZO BIGB4ND


文 : 原 雅明

 2000年代半ば、ヴァージニア州リッチモンドの大学のジャズ・プログラムに通うミュージシャンを中心に、地元の活気ある音楽シーンから自然発生的に生まれたのがブッチャー・ブラウンだ。まだブッチャー・ブラウンを名乗る前から、他のミュージシャンのサイドメンを務めながら、自分たちのやりたい音楽を模索していった。その後、プロデューサーでマルチインストゥルメンタリストのDJハリソンことデヴォン・ハリスのスタジオ(Jellowstone Studio)が、彼らの拠点となった。ブッチャー・ブラウンはライヴパフォーマンス主体のジャムバンドのようなイメージも持たれるが、スタジオでのセッションやレコーディングがバンドの基盤を作ってきた。スタジオは、一緒にさまざまなレコードを聴き、アイデアを出し合う場でもあった。

 2014年のデビュー・アルバム『All Purpose Music』から2020年の『#KingButch』まで、ヒップホップ、ネオソウル、サザンロック、ソウルジャズ、ジャズファンク、アフロビート、フュージョン等、ジャンルの境界を意に介さず、作品を発表し続けてきたのも、バンドの共有スペースであるスタジオでの、リラックスした環境と時間がもたらしたものが大きかった。

 コロナ禍でいち早く配信を始めた『#MotherShipMonday』というシリーズも、スタジオをベースにした彼らの柔軟でフットワークの軽い活動が可能にしたことだった。これは、ブッチャー・ブラウンのメンバーそれぞれが影響を受けてきた、新旧の音楽をカヴァーする企画だ。作編曲家、プロデューサーのデヴィッド・アクセルロッドの「Holy Thursday」からスタートし、ほぼ1年間に渡り、毎週のように演奏が配信された。時折、ゲストも交えた配信は、彼らのスタジオを訪れて一緒に音楽を共有して楽しむ体験を提示した。

#MothershipMonday
https://found.ee/BBMothershipMondaysPL

 『#MotherShipMonday』を経て、ブッチャー・ブラウンはビッグバンドをフィーチャーした最新アルバム『Butcher Brown Presents Triple Trey featuring Tennishu and R4ND4ZZO BIGB4ND』をリリースした。トランペッター兼サックス奏者でMCも担当するマーカス "テニシュー" テニーとベーシストのアンドリュー・ランダッツォの名前が付けられたテニシュー・アンド・ランダッツォ・ビッグバンドは、リッチモンド出身のミュージシャンからなるホーンセクションを中心とした編成だ。冒頭の「Triple Trey (Intro / How Much A Dollar Cost) 」から重厚なホーンを聴くことができる。ビッグバンドとテニーのラップが、ほぼ全編に渡ってフィーチャーされているが、そもそもはテニーがヒップホップ・アルバムとして作曲、プロデュースしたのだという。それを、ランダッツォがビッグバンド・ジャズの組曲にアレンジしたのが、このアルバムの成り立ちだ。

Butcher Brown - Liquid Light (Official Animated Video)


 ジャンルを横断してきたブッチャー・ブラウンに、敢えて原点と呼べるものがあるとすれば、リッチモンドのビートメイカー、オブリヴ(Ohbliv)からの影響が色濃く反映された『All Purpose Music』にあるビートテープのフィーリングやテクスチャーだろう。ジャズ・ヒップホップ・バンドと言われるブッチャー・ブラウンだが、ヒップホップをジャズとしてスタイリッシュに演奏することはない。Stones Throwからソロ・デビューもしているDJハリソンのスタジオには、数々のスタジオ機器や楽器と共に、古いオープンリールやカセットテープのデッキ、MPC、SP-404、ターンテーブルなどが所狭しと並べられている。ビート・メイキングとバンドの演奏、録音がまったく対等に存在していることが見て取れる。

 それゆえ、ミュージシャンとプロデューサーの両側面が相反することのない『All Purpose Music』が生まれた。そして、『Butcher Brown Presents Triple Trey』は、『All Purpose Music』を再現するのではなく、ビッグバンドを伴って原点であるヒップホップ/ビートテープの世界に戻って来たアルバムだと言える。DJプレミアがプロデュースしたザ・ノトーリアスB.I.G.の「Unbelievable」が唯一のカヴァー曲として登場するが、サンプルを細かく切り刻んでMPCのパットで再構築された原曲を丁寧になぞっていく演奏に、ブッチャー・ブラウンのヒップホップに対するスタンスがよく表れている。

Butcher Brown - Unbelievable (Official Performance Video)


 前作『#KingButch』に続いて、ウェザー・リポートの『Heavy Weather』や『Mr. Gone』を手掛けたコラージュ作家のルー・ビーチがアルバムのアートワークを手掛けている。ミュージシャン意識が高い音楽がポピュラリティを得る可能性をウェザー・リポートが切り開いたと、ブッチャー・ブラウンの面々は高く評価していたが、フュージョンには向かわず、ヒップホップとビッグバンド・ジャズの接点に更なる可能性を見出した。パーティ・ミュージックとして楽しめる要素があるのはもちろんのこと、近年注目されているビッグバンド・ジャズの新たな流れとして、このアルバムを聴いてみることもできる。


■作品情報
Butcher Brown Presents Triple Trey featuring Tennishu and R4ND4ZZO BIGB4ND

https://Butcher-Brown.lnk.to/BBPresentsTripleTrey