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現在進行形のUKジャズ・シーンの奥深さを体感! 『ブルーノート・リイマジンド II』



文:佐藤優太

最初に『ブルーノート・リイマジンド II』が出ると知ったのは、ロンドンのデトフォードのライブハウス兼パブ、Macthstick Piehouseにいる時だった。ちょうど前作にも参加したスチーム・ダウンのライヴが始まる直前だったのでよく覚えているのだが、最初は「こんなにも早く第2弾が出るのか!」と驚いた。



とはいえ、同時に発表されたトラックリストや、そこに参加しているミュージシャンの顔ぶれを見てすぐに納得した。なるほど、確かに今のUKのシーンは層が厚く、本シリーズを通して世界に紹介されるべき才能が、まだまだたくさんいる。

UKのジャズやその周辺のシーンは、もしかしたら日本からメディアを通して見聞きするよりも遥かに幅が広く、懐が深いかも知れない(というか、そうであることをロンドンに来て改めて実感した)。2020年の『ブルーノート・リイマジンド』は、その中でも特に、ネオ・ソウルやモダンなダンス音楽からの影響を昇華した“21世紀型のクラブ・ジャズ・サウンド”の演じ手というべきミュージシャンやバンド──ジョルジャ・スミス、エズラ・コレクティブ、ジョーダン・ラカイら──が多く参加していた、と、まずはざっくり説明することができる。地理的にも、いわゆるサウス・ロンドンを活動拠点にするメンバーが多く、また参加陣は人種的なダイバーシティにも富んでいて、それはそのまま現在のロンドンのシーンや街の多様性の反映のようにも思われた。

そして、パンデミックを経た2022年現在、そうしたシーンの“拡がり”は、さらに可視化されるようになった。例えばシャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オブ・ケメットのメンバーでもあり、前作の「Prints Tie」(ボビー・ハッチャーソン作)のレコーディングにも参加したドラマーのトム・スキナーは、ロック・バンドのレディオヘッドのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドの新プロジェクト=ザ・スマイルに、文字通り第3のメンバーとして参加、アルバム(『A Light For Attracting Attention』2022年)も発表した。



そのトム・スキナーは、トム・ハーバートやデイブ・オクムといったUKの音楽家たちと以前から綿密に連携/共演しており、その人脈はマシュー・ハーバートやフローティング・ポインツのような電子音楽作家へも繋がっていく。今や“UKジャズ”のミュージシャンのコミュニティと呼ばれるものは、UKの楽器奏者、あるいはミュージシャン全体のコミュニティ自体とも、かなりの程度重なりつつあるという印象がある。

『II』の参加者で言えば、「Infant Eyes」(ウェイン・ショーター作)をシルキーなネオ・ソウル・サウンドでカヴァーするピアニスト/シンガーのルーベン・ジェイムスは、近年ロンドンを拠点にしている宇多田ヒカルの近作やライブ・プロジェクト『Live Sessions from Air Studios』にピアニストとして参加。彼に限らず多くのミュージシャンが、特定のジャンルや領域に限定されない活動を繰り広げている。



若くして豊富なキャリアを持つルーベンは、新作の中では例外的な存在とは言え、近年活躍する若手〜中堅ミュージシャンの中には、ギルドホール音楽演劇学校やトリニティ・ラバンといった名門音大で、演奏のトレーニングを積んだ者も少なくない。そんな彼らが、一方で、ポピー・アジューダやヌバイア・ガルシアもかつて参加したと言われる伝説的なイベント“Steez”や、冒頭のスチーム・ダウンの“SD Weekly”といった、ミュージシャン主導型のインディペンデントなセッションで切磋琢磨し、横の繋がりを強化する。そんな文化的な状況が、現在のロンドンやUKのミュージシャン同士の緩やかな連帯を生み出している。



今年リリースされたウールーの『LOGGERHEAD』をはじめ、ロンドンのアーティストの作品に多数参加するエゴ・エラ・メイは、そうした“繋がり”を象徴するミュージシャンの一人。今年だけで、他にもブルー・ラブ・ビーツやシオ・クローカー、コージェイ・ラディカルの最新作に参加し、文字通り引っ張りだこの彼女は、チコ・ハミルトンの「The Morning Side Of Love」のカヴァーでこの『II』に参加。原曲の浮遊間のあるラテン・フュージョンのグルーヴをモダンなハウス・サウンドに変換しつつ、そこにそのエアリーかつ艶やかなヴォーカルをも披露している。



エゴ・エラ・メイだけでなく、『II』には、前作に引き続き注目の女性音楽家が多く参加している。アルバムの冒頭を飾るヤズ・アーメッドは中東にルーツを持つトランペット/フリューゲルホルン奏者。新作では、原曲はわずか30秒の長さしかないチック・コリアの「It」を大胆に拡張し、彼女らしいオリエンタルなオーケストラル・フュージョンへと昇華している。また、ロンドンを拠点にするシンガーソングライターのチェリーゼと、シンガー/サックス奏者のパルテノぺは、ともにノラ・ジョーンズの『Come Away With Me』(2002年)からの曲をカヴァーし、オリジナル版のポップな魅力を引き立てる。前者は筆者が昨年観たTomorrow’s Warriorsの30周年記念ライヴでも、自ら司会をこなすかたわら歌でも観客を魅了しており、マルチな“華”のある存在だ。



 そのTomorrow’s Warriorsのイベントで、現役生の変則ビッグ・バンドを指揮していたビンカー・ゴールディングは、ビンカー&モーゼスなどのユニットで活動するとともに、自身のバンドでもアルバムを発表する実力派で、教育者としての顔も持つ。新作では、ジョー・ロヴァーノの「Fort Worth」をカヴァーしており、折衷的なスタイルが求められがちな現代のロンドンにあって、よりアコースティック&オーセンティックなジャズにがっぷり四つで向き合う技術力とセンスを見せつけている。



本稿にもたびたび登場するスチーム・ダウンの主要メンバーであるチューバ奏者のセオン・クロスも現行ロンドンの実力派。並行して所属するサンズ・オブ・ケメットで、やはり高い演奏力を誇るシャバカ・ハッチングスと双璧をなす彼の安定感のあるプレイは、筆者が見たスチーム・ダウンのライヴでも頭一つ抜けるレベルだと感じた。加えて、どこかシャイさを感じさせるキャラクターも魅力で、ストイックな音楽の求道者といったイメージもある。最新作では、セロニアス・モンクのスタンダード「Epistrophy」を、彼のソロ名義同様、ユニークなエディットを施したチューバの演奏で聴かせていて、高いクリエイティビティを感じさせる。



また、グラント・グリーンのファンキーな名曲を、ラッパーのオスカー・ワールドピースをフィーチャーしたアフロ・スウィンギンな「(Why You So) Green With Envy」としてカヴァーしたギタリスト/シンガーのオスカー・ジェロームも、現代ロンドンの腕利きの一人。最近はジョー・アーモン・ジョーンズのバンドでも活躍する一方、自身の作品では、インクルージョンをテーマにしたインディ・ロック寄りの歌ものにも取り組むなど、表現の懐が広い彼らしいトレンド感が魅力のトラックだと言える。



ジェイコブ・コリアーに通じる一人多重録音の名手であり、“ポップなジョーダン・ラカイ”的な印象もあるコナー・アルバートは、ボビー・ハンフリーの名盤『Fancy Dancer』(1975年)から「You Make Me Feel So Good」を、オルタナR&B風の味付けでカヴァー。サム・ヘンショウとの共演が話題のマヤ・デリアの「Harvest Moon」(ニール・ヤング作の名曲で1995年にカサンドラ・ウィルソンが録音)と共に、ポップ寄りのフィールドにも若い才能が尽きないことを証明する2組だ。



全体の選曲で印象的なのは、ドナルド・バードの曲を実に4組がカヴァーしていること(スウィンドル、ヌビヤン・ツイスト、ヴェンナ&マルコ・バーナーディス、フランク・ムーディ)。特に、うち2組は『A New Perspective』(1963年)から選曲。ゴスペルのクワイアとジャズを融合した同作が、このタイミングで厚く取り上げられていることは、1980年代や90年代からファラオ・サンダースやアリス・コルトレーンのスピリチュアル・ジャズが人気で、さらに近年のBLM(Black Lives Matter)運動以降の変化の中で、自国の移民文化にも強く目を向ける今のUKの時流を思えば、とても自然な流れだ。(ちなみに現代のUKで最も注目を集めるプロデューサーの一人=インフロは、自身のプロジェクト=ソー(Sault)の新作『Air』(2022年)で、やはりクワイアを大胆に取り入れて話題となった。)



つい先日、そのファラオ・サンダースの訃報が流れた時も、ジャズ系に限らず電子音楽からインディ・ロックのミュージシャンまで、本当に多くのミュージシャンが彼への追悼の意を、ソーシャル・メディア上で示した。そのシリアスさは、それこそバードやファラオが作り上げたスピリチュアルな──精神的で宗教的な──ジャズが、厳しさを極める社会の中で、単なるスタイルとしての意味を超えて、“救い”や“祈り”のメッセージも含めて、切実に求められていることを示しているのかも知れない。

 さらに日本盤にはBIGYUKIによるボビー・ハッチャーソンの「The Creators」のカヴァーも収録。これもまたゴスペル・クワイアをフィーチャーした原曲を、サイバーパンク的な現代性で解釈したようなトラックで、アルバム全体の世界観とも絶妙に符合する名カヴァーとなっている。



『ブルーノート・リイマジンド II』は、基本的にはとても洒脱で親しみやすく、一般的にロンドンやUKのジャズやソウルのサウンドをイメージした時に喚起されるタイプのポップな魅力が、しっかりと感じられるショーケース作品だ。だが、その背景には、現代を生きるミュージシャンならではの、時にシリアスな心情やメッセージもあるのかも……と想像してみると、より一層その音楽の魅力を感じることができるかも知れない。


■作品情報
AL『ブルーノート・リイマジンドII』/VA

2022年9月30日リリース
UCCM-1269SHM-CD¥2,860(tax in)
https://lnk.to/BNR_IIPR

収録曲目:
01. ヤズ・アハメド/ イット チック・コリア『Is』(1969)収録
02. コナー・アルバート/ ユー・メイク・ミー・フィール・ソー・グッド ボビー・ハンフリー『Fancy Dancer』(1975)収録
03. パルテノペ/ ドント・ノー・ホワイ ノラ・ジョーンズ『Come Away With Me』(2002)収録
04. スウィンドル/ ミス・ケーン ドナルド・バード『Street Lady』(1973)収録
05. ヌビヤン・ツイスト/ スルー・ザ・ノイズ(チャントNo. 2) ドナルド・バード『A New Perspective』(1963)収録
06. イゴ・エラ・メイ/ モーニング・サイド・オブ・ラヴ チコ・ハミルトン『Pereginations』(1975)収録
07. オスカー・ジェローム/ グリーン・ウィズ・エンヴィ グラント・グリーン)『Green Street』(1961)収録
08. ダニエル・カシミールfeat. リア・モラン/ ロスト ウェイン・ショーター『The Soothsayer』(1965)収録
09. テオン・クロス/ エピストロフィー セロニアス・モンク『Genius Of Modern Music, Vol. 1』(1948)収録
10. マヤ・デリラ/ ハーヴェスト・ムーン(オリジナル:ニール・ヤング) カサンドラ・ウィルソン『New Moon Daughter』(1995)収録
11. ケイ・ヤング/フィール・ライク・メイキング・ラヴ マリーナ・ショウ『Who Is This Bitch, Anyway?』(1974)収録
12. ヴェンナ&マルコ・バーナーディス/ ホエア・アー・ウィー・ゴーイング ドナルド・バード『Black Byrd』(1972)収録
13. ルーベン・ジェイムス/インファント・アイズ ウェイン・ショーター『Speak No Evil』(1964)収録
14. ビンカー・ゴールディング/フォート・ワース ジョー・ロヴァーノ『From The Soul』(1991)収録
15. チェリーゼ/サンライズ ノラ・ジョーンズ『Feels Like Home』(2004)収録
16. フランク・ムーディ/ クリスト・リデンター ドナルド・バード『A New Perspective』(1963)収録
17. BIGYUKI / ザ・クリエイターズ ボビー・ハッチャーソン『Now!』(1970) 収録
※日本盤限定ボーナス・トラック