COLUMN/INTERVIEW

ライヴレポート:ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』をドルビーアトモスで味わう

文・写真:門岡明弥 
 




ジャズ界のカリスマこと、ジョン・コルトレーン。彼がブルーノートに残した唯一のリーダー作である『ブルー・トレイン』はジャズ史上特に人気の高い作品のひとつだが、なんと今年でレコーディングから65周年となる。
今年9月には、最新リマスタリングを施したオリジナル・アルバムに加え、別テイク7曲を収録した完全盤がリリース。それを記念し、ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』Dolby Atmos(ドルビーアトモス)試聴会が、10月22日(土)に開催された。
 

 


今回の会場は、東京都台東区にあるTheater SPROUT(シアタースプラウト)。
ドルビーアトモスの音響を楽しめる設備が整っており、空間オーディオ体験イベントをはじめ、さまざまな催しが行われている会場だ。コメンテーターに音楽評論家の村井康司、佐藤英輔の各氏を迎えて、ジョン・コルトレーンの名盤を現代ならではの音響で味わっていく。


これぞブルーノートの音!

村井:『ブルー・トレイン』は超名盤と言っていい作品なので、これまでもさまざまな形で出ていましたね。たとえば、1990年代に出た『ウルティメイト・ブルー・トレイン』とか、今日も探して持ってきちゃいました。
これは曲だけじゃなくて、パソコンとかで読み込むとカーティス・フラーが当時の話をするインタビュー映像が見れるんですよね。今はもう私が持っているパソコンでは読み込めなくなってしまいましたが……(笑)。英輔さんも、『ブルー・トレイン』いっぱい持っているでしょ?

佐藤:アナログも一応持っているけど、CDは2種類くらいですね。ただ、はじめて聴いたときに「すごい!」と思ったというより、後からよさに気づいた感じだったかな。コルトレーンのよさはもちろんですが、時間が経ってみて、ブルーノートのよさを感じられた部分も大きかったです。音の録り方とかね、他のコルトレーンの音と比べたときに「めちゃくちゃブルーノートのアルバムじゃん!」って。
なので、僕にとってコルトレーンはブルーノートのよさを改めて教えてくれた人だなと感じています。1曲目なんかもう、これぞブルーノート・チューンというかね。

村井:ブルーノートはプレスティッジと違って、リハーサルをちゃんとやらせてくれるって言うよね。しかも、リハーサルにもギャラが発生するという、大変良心的な感じで。
プレステージは、5時くらいになると「そろそろブルース1曲やって終わりにしよう!」ってプロデューサーが言うんですって。それで、必ずブルースが収録されている……なんて話もあって。
そのアバウトさがジャズっぽいといえばそうなんですけど、それに比べたらブルーノートはきちっとしていて、オリジナル曲も多めなんだよね。
 


(左:佐藤英輔氏 右:村井康司氏)


村井:それでもって、今回の『ブルー・トレイン』は、これまで出たものと比べると特に音もよくなって、大変素晴らしい仕上がりになっているように感じます。

ただ、『ブルー・トレイン』をドルビーアトモスで聴くのは、実は私たちも初めてなんです。なので、会場のみなさんと一緒になって「お〜、すごい!」とか言いながら楽しめたら嬉しいです。

佐藤:じゃあ、早速聴いてみましょうか!


ドルビーアトモスで紐解く『ブルー・トレイン』

◆「ブルー・トレイン」


佐藤:いや〜、やっぱりいいね!

村井:いいですね〜。実際にドルビーアトモスを聴いてみると、コルトレーンが吹くテナー・サックスの張り出し方が立体的で、ちょっと手前に出てきて吹いている感じがしました。あと、ポール・チェンバースのベースが聴き取りやすくなっていましたね。最後のベース・ソロを聴くと、ドラムがベースよりもやや内側にいて、ベースがそれよりもやや右側にいるっていう立ち位置の感じが、ステレオで聴いているときの何倍もよくわかって面白かったです。

佐藤:ドラムのアクセントにせよ、細かい部分がより聴こえるようになって、新たな発見を呼び起こすよね。ピアノが左に寄っていたけど、スタジオでも本当にそうやって並んでいたのかな?とも感じられるような。そのくらい音の立体感がありました。

村井:この当時はルディ・ヴァン・ゲルダーの自宅の応接間を改造したスタジオで録音していたので、結構狭い環境だったんですよね。両親の迷惑になるから夜はやらない!みたいなこともあった時代だったそうですが、その感じも見えてくるような気がしました。

佐藤:家に招かれたっていうと大げさになっちゃうけど、そんなようなね(笑)。

村井:ドラムのシンバルは右側から聴こえたんだけれども、シンバルの倍音が真ん中の方に聴こえているのも面白かったです。やっぱり、ステレオより全然わかりやすい。真ん中の方に、粒子状に散っていくような感じでね。これ、他の曲でドラムソロとかあるともっと分かると思うんだけども。

……というわけで、次の曲へいきましょう。次は「モーメンツ・ノーティス」といって、当時としては非常に新しいコード進行を用いて作られた曲です。普通のスタンダードとかブルースを弾きなれているミュージシャンが、「これはなに?」って驚いてしまう曲だったそうですよ。
また、「モーメンツ・ノーティス」っていうタイトルは、「急に、いきなり」といった意味合いなんですけど、トロンボーンのカーティス・フラーが「この曲やるよ」ってコルトレーンに言われて、「こんな曲いきなりやるの!?」と驚いたんですって。それで、タイトルが「モーメンツ・ノーティス」になったというエピソードもあります(笑)。

それでは2曲目、聴いてみましょう。

◆「モーメンツ・ノーティス」


佐藤: 1曲目の「ブルー・トレイン」もすごく好きなんだけど、やっぱり白眉の曲だなと感じます。このときコルトレーンって何歳くらいでしたっけ。

村井:31歳ですね。

佐藤:そうかぁ。リー・モーガンなんて20歳になったばかりだったわけでしょ。カーティスも20歳ちょっとくらいのときに、こんな演奏。本当にすごいよね。(村井コメント:リー・モーガン19歳だと思います)
「ええっ、こんな曲やるの!」と思いつつも、果敢に挑んでいく感じもにじみ出ていて。だからこの曲を聴くと僕は、当時のジャズは“ユースミュージック”だったんだなと感じます。

村井:ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズがいちばん年上だけど、彼もまだ30代前半。みんな若いんだよね。

佐藤:みんなで新しいものを作ろうって意欲とか、俺だったらこうするぞ!って気概とか。こういう音で聴くとよりひしひしと感じられてたまらんなぁ……と。

村井:オーディオ面でびっくりしたところもありました。まず、最新のマスタリングをステレオで聴くと、定位が結構違うんですよ。ステレオでは管楽器が左に寄っているんだけど、ドルビーアトモスで聴くと結構真ん中の方に聴こえたんですね。
それと、管楽器は3人横並びで録音していると思うんだけど、一番右がカーティス・フラーで、真ん中がリー・モーガン、一番左がコルトレーンだったと思うんですよ。
その順番が、この音響だと耳で聴いてわかるんですね、これすごいなって(笑)。そういう楽しみ方もできるのは、ドルビーアトモスならではだと感じます。
次に聴く「ロコモーション」も、コルトレーンのオリジナルですね。ブルース+αのような形をコルトレーンは好んで使いますが、この曲はブルースにサビがちょっとくっついたような曲です。

◆「ロコモーション」


佐藤:ブルー・トレイン・エクスプレス……って感じですね(笑)。

村井:「ブルー・トレイン」と「ロコモーション」、電車合わせしたわけですよね。こういう速めのテンポでシンプルな曲だと全員ノリノリで、コルトレーンのソロとか本当にいい音だし、ギュッと詰まった筋肉質な音がね。ものすごいパワーを感じました!
これやっぱりドルビーアトモスで聴くと、よりハッキリ音の質感がわかるかな。アクセントの付け方とか、よくわかる。
コルトレーンもそうだし、リー・モーガンのトランペットも、空気がバン!って弾けるような勢いが凄まじい。ソニックブームを感じますよね。

佐藤:俺もすっげーなと思いました! リーのときだけ、ポール・チェンバースもボンボン煽っているような感じがあって。聴きながら唸ってしまいました。

村井:改めて、スタジオにいるような感じがします。アクセントがパァーンと付いて、空気に当たるようなリー・モーガンのトランペットや、コルトレーンのリードの動きとかね。音を聴くだけでよくわかるなって。本当にリアルな体験です。

佐藤:なんだか、お互いの意思交換っていうのも見えてくる気がします。

村井:そうだね。この人がこうしたからこうしましょうっていうのがね。たとえばピアノ・ソロになると、ドラムの音量を落としてシンバルの叩き方もガラッと変える……とか。そういう音楽のコミュニケーションも見えてきて、楽しいですね。

じゃあ、次の曲にいきましょう。4曲目はこのアルバム唯一のジャズ・スタンダード、「アイム・オールド・ファッションド」です。

◆「アイム・オールド・ファッションド」


村井:3人管楽器がいても、割とバラードってリーダーだけ吹いて2人外れることも多いじゃないですか。でもコルトレーンは律儀な人だから、全員に均等に機会を与えるんですね。しかも後テーマをリー・モーガンに吹かせるっていうね、粋じゃないですか(笑)。
もちろんコルトレーンは本当にいいんですけど、やっぱりリー・モーガンっていいねぇ。なんでしょうね、この人。天才としかいいようがないよね。

佐藤:この頃はもうブルーノートのスターだったでしょうね。

村井:それに、スタンダードがアルバムにたくさん入ってると目立たないけど、オリジナルの中に1曲ポンとあるところもいいよね。

佐藤:1曲だけスタンダードを入れたのは、これ誰のアイデアですかね!

村井:わかんないですね〜。アルフレッド・ライオンかもしれないけど、言わないね、あの人きっと。「なんでスタンダードやるの? オリジナルやってよ」とか言いそう。まぁでも、コルトレーン自身も1曲は入れたかったんじゃないかな。

 


村井:次で最後の曲になってしまうのですが、今日はずっとこのジャケットを観ながら過ごしましたね。実はコルトレーン、この写真で飴を舐めているんです。棒に刺さったロリポップっていう丸い飴をね。
あれを食べているところをなぜか写真に撮られ、それがジャケットになって、60数年ずっとこの姿のコルトレーンが世の中に残るという……、なんだか面白いよね(笑)。甘いもの好きだったんだね。

というわけで本日最後の曲、「レイジー・バード」。転調に次ぐ転調を重ねる曲なんですけど、聴いた印象はずっとさわやかでポップ。難しい感じも全然しません。
しかも、テーマを吹いているのはリー・モーガンひとりっていう、渋いアレンジです。
それでは最後の曲、「レイジー・バード」をみんなで聴きましょう!

◆「レイジー・バード」

 

村井:『ブルー・トレイン』は昔から大好きだったけど、こういう音でひと通り聴くと、ますます好きになっちゃうよね。

佐藤:本当にそうですね。ただ、素晴らしいからこそ、なんでもう1〜2回くらいブルーノートで録れなかったんだ!とも思ってしまうなぁ。ちょっとだけ馬鹿な言い方をしたら、『ジャイアント・ステップス』をブルーノートで録ったらどうなるか……なんて。

村井:そうするとリハーサルも出来たから、ピアノのトミー・フラナガンもつっかえずに済んだのかもしれないね(笑)。

佐藤:ははは(笑)。でも、今回『ブルー・トレイン』をドルビーアトモスで聴いてみて思ったけど、ブルーノートで出した1回限りのレコードだし、何よりブルーノートの商品だからこそ、今改めてこんな形で聴けるんだなと思いました。

村井:確かに、ブルーノートのものだからここまでハイクオリティなものができたわけで。最新のテクノロジーを使って何度もいろんな形で聴くことができるのは、本当にそうかもね。

 


村井:それでは、皆さん本日はお楽しみいただけましたでしょうか。ご感想など、いろいろなところで言っていただけたら嬉しいです。どうもみなさん、ありがとうございました!

佐藤:ありがとうございました!

※Dolby、ドルビー、Dolby AtmosおよびダブルD記号は、アメリカ合衆国とまたはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。