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【特集】2022年、私の愛聴盤~原田和典

毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚をご紹介します。

文:原田和典

John Scofield (ECM)


Yusei Takahashi/Nakamure Sadanori / NU (Chitei Records)


Albert Ayler / 『Revelations: The Complete ORTF 1970 Fondation Maeght Recordings (Elemental)


3年目のアンダー・コロナが終わろうとしている。早いものだ。

2020年上半期は本当に怖かった。外気に触れるだけで細胞がぶっ壊れて呼吸が止まるんじゃないか、という気分におそわれた。窓を閉めっぱなしにして、買い置きしてあった缶詰やサトウ食品のあれこれを食べて毎日を過ごし、YouTubeの生番組を見て外とつながろうとした。

その頃、胸に刺さった番組のひとつに「International Jazz Day Virtual Global Concert」がある。ジョン・スコフィールドが登場したのは日本時間の朝5時ごろだったか。自宅でのソロ・パフォーマンスだった。椅子に深く腰掛けて、チャールス・ミンガスの曲をつまびいていた。やさしいピッキング、深いトーン、なまめかしい弦の揺らし方に、眠気が一気に吹っ飛んだ。彼のソロ演奏をもっと聴いてみたい、と強く思った。

それから2年を経た今年の5月、ジョンの新作が国内発売された。タイトルは『ジョン・スコフィールド』。1978年にトリオ・レコードから登場したアルバム(海外では『East Meets West』として発売)と同じタイトルではないか。そのときは自己紹介的な意味も込めたセルフ・タイトルだったのだろうが、今回は他のメンバーが一切入らない純度100%のジョンスコ印ということで、自分の名前を冠したのであろう。「ダニー・ボーイ」からニューオリンズR&Bの名曲「ジャンコ・パートナー」、バディ・ホリーの(私的にはローリング・ストーンズのヴァージョンが印象深い)「ノット・フェイド・アウェイ」などなど、聴いているうちに彼の趣味性というか音楽指向の核が見えてくるようなつくりにうれしくなって、しばらくの間、再生機械にはこのディスクが入りっぱなしであった。

「聞き流せる」のも良い。パンデミックになって家にいる時間が格段に増えて、いいかえれば、家で音を鳴らす時間が増えて、ガーッと集中して聴き入る時間と同じくらい、あるいはそれ以上に、ほどほどの音量で聞き流す時間が増えた。その両方に、『ジョン・スコフィールド』は実にすんなりと、なじむのだ。ソロといっても無伴奏形式ではなく、巧みにルーパーを使いながらの世界構築であるのも内容に起伏を加えていて、あたかもビル・エヴァンス『カンヴァセーション・ウィズ・マイセルフ』のジョン・スコフィールド版に出会ったような印象だ。



日本のミュージシャンの新作にも本当に楽しませてもらった。なかでも中牟礼貞則の活躍には本当に頭が下がる。ことしプロ入り70年を迎えた、昭和8年生まれのギタリストが、これほどまでにクリシェを感じさせない、みずみずしい世界を創出しているのはジャズ界の奇跡だと思う。今年は3点、新作を出しているはずだが、2月に発売されたピアニスト・高橋佑成(平成6年生まれ)とのデュオ『Nu (ヌー)』は即興の青白い炎がゆらめく傑作として、来年も再来年も聴き続けたい気分にさせる。



発掘ものではアルバート・アイラ―の『Revelations:※半角アケ The Complete ORTF 1970 Fondation Maeght Recordings』(4月発売)を満喫した。小出しにされていた“マーグ財団コンサート”の全貌が遂に明らかになったのは快挙だ。フリージャズの勇者としてではなく、デカい帽子をかぶり、ドレスを着て、顔にグリースを塗りたくり、パートナーのメアリー・パークスと共に愛や宇宙を謳う末期アイラーの姿に骨の髄まで浸れる。収録はアイラーが命を絶つ4カ月前の70年7月。ソニー・シャーロックとリンダ・シャーロック、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ、カーラ・ブレイとマイク・マントラー、アレスキ・ベルカセムとブリジット・フォンテーヌも同時期、いろいろ興味深い行いをしていたことを考えると、この時代はカップル共闘の季節でもあったのかもしれず、“男女愛と芸術”というテーマからこのアルバムを掘り下げてみるのも一興かもしれない。