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【特集】2022年、私の愛聴盤~柳樂光隆

毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚をご紹介します。

文:柳樂光隆

Ronnie Foster / Reboot (Blue Note)


Charles Lloyd / Trio of Trios (Blue Note)


Donald Byrd / Live: Cookin' with Blue Note at Montreux (Blue Note)


ドン・ウォズ後のブルーノートはベテランへの敬意を欠かさないのがいい。毎年毎年、大ベテランたちがブルーノートから新録をリリースしているのだが、日本にいると正直「この人、まだやってたのか」というレベルのベテランの新録ばかりでかなり驚く。そして、それがどれも内容がいいのだが、若手がプロデュースしていたり、今っぽくデザインされているわけではないのが面白いのだ。おそらくアーティストが普通に録音した音源の中から、リリースに値すると思ったものだけをピックアップしているのだろう。

今年は鍵盤奏者のロニー・フォスターが『Reboot』をリリースした。ロニー・フォスターは70年代にブルーノートにいくつもの作品を残した鍵盤奏者。もっとも有名なのは『The Two Headed Freap』で、曲で言えば「Mystic Brew」だろう。ア・トライブ・コールド・クエストの「Electric Relaxation」にサンプリングされ、ヒップホップ的にはブルーノート屈指の人気曲として知られている。その後、ブルーノートに4枚のリーダー作を残しているが、どれも素晴らしい。

ロニー・フォスターは上手いというよりは、センスがいい印象がある。音色やタッチ、そして、ニュアンスがとにかくいちいち“いい感じ”なのだ。だから、彼のアルバムを聴いているとヒップホップのプロデューサーがサンプリングで切り取ってループしたくなるのもよくわかる。そんなセンスを持っているからこそ、ロニー・フォスターはジョージ・ベンソンの大ヒット作『Breezin’』やスティービー・ワンダーの名盤『Songs in The Key of Life』にも起用されてきたわけだ。

そんなロニーが80年代にマイナーレーベルに残した作品以降、久々(30年以上のブランク!?)のリーダー作が『Reboot』なのだが、ここでもそのセンスの良さはそのまま残っているのだ。ロニーがハモンド・オルガンを弾くと、いかにもなオルガンなサウンドだけでなく、独特の響きや音色になる。その上でまるでローズやシンセを弾くようなモダンなフレーズやコードを駆使する。ロニー・フォスターが弾くとただのオルガン・ジャズではない、ロニー・フォスターらしい何か別の音楽になるあのセンスが健在なのがわかる。これをヒップホップよりに今っぽく作ることもできたが、敢えて、ロニー本人の感性のまま、彼主導の作品としてリリースしたこともで、ジャズ史においては貴重な“記録”になる気もする。



ベテランといえば、チャールス・ロイド。『Trios: Sacred Thread』『Trio: Ocean』『Trios: Chapel』の3作をリリースし、それを『Trio of Trios』としてまとめた。一応、3作ともギターがいて、ドラムがいない3人編成だが、メンバーもばらばらだし、共通点はあるようでない。とはいえ、ドラムレスで自由にゆったりと演奏するチャールスが聴けることだけは一貫している。

ジュリアン・ラージ、ビル・フリゼール、アンソニー・ウィルソンの3人のバラバラな個性のギタリストを聴き比べるのも面白いし、70年代からインド音楽への関心を持っていて、チャールスがザキール・フセインを迎えて久々にインド音楽に取り組んだのも面白い。この編成だと、チャールスも以前所属していたECM的なベクトルになりそうなものだが、どのセッションでも温かみや柔らかさを感じさせるのが聴きどころで、このメンバーで、この組み合わせでも、アメリカーナでも音響的でもアンビエントでもなく、不思議なほど「ジャズ」を感じさせるのが楽しかった。

ビル・フリゼール『Four』、ジュリアン・ラージ『View with The Room』、ジェラルド・クレイトン『Bells on Sand』と、ここに参加している3人はそれぞれがブルーノートからリーダー作を発表していて、それぞれがその作品に通じる演奏をしている。ただ、チャールスが入ると彼らの音楽とは全く異なるものになり、明確に“チャールス・ロイドの音楽”になる。スピリチュアルで瞑想的でパワフルな「ジャズ」になる。

ECM期もすごかったが、ブルーノート移籍後のチャールス・ロイドは明らかに何度目かのピークが来ていて、それがずっと続いていて、終わる気配が全くない。3作連続リリースでも全く外さなかった今のチャールスの好調ぶりには驚くほかなかった。



そして、今年は近年のブルーノートの最高レベルの発掘音源と言ってもいいドナルド・バードのモントルーでのライブ盤『Live: Cookin' with Blue Note at Montreux』がリリースされたのも欠かすことはできないトピックだ。ドナルド・バードの73年のライヴで、これはつまりドナルド・バードがマイゼル・ブラザーズと共にブラックバーズを結成して、新たなファンク路線で活動を始めた時期。活きのいい若手たちと活動していたが、印象としてはモータウンとも仕事をするプロデューサーでもあるマイゼル・ブラザーズとのコラボによるポップ化の時期であり、ジャズ度・即興度は低下しているイメージが一般的だろう。

しかし、ここでの演奏は強烈なジャズ・ファンクで、その演奏はキレッキレなだけでなく、ほとんどパンクと言ってもいいくらいに超ハイテンション。なんなら暴力的と言ってもいいくらいな演奏が続く。ドナルド・バードのイメージが変わってしまうこと間違いなしの衝撃のライヴ盤だ。ネイサン・デイヴィスやヘンリー・フランクリンの参加も関係あるのか、ジャズ・ファンクでありながら、スピリチュアルジャズ的な部分もある。そこではブルーノートではなく、ブラック・ジャズやトライブといったアフリカン・アメリカンによるハードコアなジャズをリリースしていたインディペンデントなレーベルのサウンドを想起させる瞬間もある。

インコグニートのブルーイがブリットファンクのパイオニア的なグループのライト・オブ・ザ・ワールド所属期の話をした際にブラックバーズの曲をよく演奏していたと語っていた。UKブラックによるパンク的なムーブメントとしての意味合いもあるブリットファンクの中心人物たちがブラックバーズを演奏していたのは彼らのアルバムの洗練されたサウンドの背景にある荒々しさを感じ取っていたのかもしれない。

この衝撃の発掘『Live: Cookin' with Blue Note at Montreux』はドナルド・バードとブラックバーズ、そして、マイゼル・ブラザーズのイメージも変えることになると思う。ある意味では今年のベスト・アルバムだと僕は思っている。

ちなみに70年代のリバティ期のライブ・アット・モントルーのシリーズのジャケを再現し、懐かしの音符ラベルを並べたアートワークも文句なし。レコードで買いたくなる逸品でもあります。