2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が90万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」に新たにVOCAL編が50作品加わりました。その中から注目の5作品をピックアップし、ご紹介していきます。

 


 

ジューン・クリスティ&スタン・ケントン『デュエット』

 

 村上春樹さんの名著『ポートレイト・イン・ジャズ』のジューン・クリスティの項は、ほぼ本作『デュエット』について触れられている。これはクリスティが恩師スタン・ケントンのピアノのみで歌い上げたインティメートなデュオ・アルバム。彼女の代表作としては、ジャズ・ヴォーカル史上に燦然と輝く『サムシング・クール』が有名で、村上さんももちろんそれを考慮に入れた上で、なおこの『デュエット』を強く推していらっしゃる。“押しては引いて、引いては押してという男女の心の機敏のようなものが、温もりをもってじわっと伝わってくる”(同著より一部抜粋)。二人の情意投合の雰囲気を表した美しい文章にときめく。

 

 

 知的で清楚な雰囲気を持つジューン・クリスティが、アニタ・オデイの後釜として、スタン・ケントン楽団のバンド・シンガーに雇われたのは1945年のこと。野心的なプログレッシヴ・ジャズを創り上げていたケントン楽団は、クリスティの加入によってポピュラーな人気を得るようになり、「タンピコ」などのヒット曲を連発する。彼女は50年代前半に専属歌手の座を後輩のクリス・コナーに譲るが、独立後もケントンとは良好な関係を続けた。このアルバムは彼らの出会いからちょうど10年経った1955年の録音なので、記念碑的な意味があるともいえるだろう。

 

 

 冒頭のコール・ポーターが作った別れのバラード「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッドバイ」から、繊細かつ緊張感ある応酬が展開されていく。“さようならを言うたびに、私は少し死んでしまう。さようならを言うたびに、私は少し考える。神様は全部ご存知のはずなのに、私のことをわかってくれない。そしてあなたを行かせてしまう”。淡々と抑制を効かせた歌唱の中に切なさを滲ませるクリスティ。存在感のあるケントンのピアノが、サウンドに起伏を紡ぎ出す。胸に迫る1曲だ。

 

 

 続く「ロンリー・ウーマン」も素晴らしい。同名異曲が多いけれど、ここに収録された「ロンリー・ウーマン」の作者はアルト・サックスの巨匠ベニー・カーター。クリスティは、ケントン楽団にいた時分にもこの曲をレコーディングしており、今回は再演である。こういう格調高いナンバーは、彼女の凛としたハスキー・ヴォイスによく似合う。

 

 

今シリーズでは、32年ぶりに再発される『ザ・ミスティ・ミス・クリスティ』にもご注目頂きたい。ミステリアスなムードが漂うセロニアス・モンクの名曲「ラウンド・ミッドナイト」は必聴。『サムシング・クール』でタッグを組んだ才人ピート・ルゴロが編曲を担当している。

 

 


 

【リリース情報】

ジューン・クリスティ/スタン・ケントン『デュエット+2』

UCCU-6365

https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6365/

 

 

ジューン・クリスティ『ザ・ミスティ・ミス・クリスティ』

UCCU-6367

https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6376/

 

 

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