2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が90万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」に新たにVOCAL編が50作品加わりました。その中から注目の5作品をピックアップし、ご紹介していきます。

 


 

フランク・シナトラ『スイング・イージー』

 

 早いものでフランク・シナトラが亡くなってから25年の月日が経つ。20世紀を駆け抜けたスーパースターは波乱万丈の人生を送った。リアルタイムにシナトラの時代を生きた音楽プロデューサーがこんな風に言っていた。「良いことも悪いこともあったって知っているけれど、アメリカ人にとってシナトラは、同じ場所にいるだけで幸せだと感じさせるエンターテイナーなんだよ」。

 

 アイドル的な人気に翳りが見えたシナトラに転機が訪れたのは、映画『地上より永遠に』(1953)に出演した頃だ。タフで、陽気で、破滅的なGIマジオ。彼はこのイタリア系アメリカ人兵士役を得るために奔走する。そしてアカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。最初に映画を観た時、これがシナトラ?と思うほどリアリティがあった。ヒーローはカムバックした。

 

 同時期、本業の歌手としてもリスタートを切り、キャピトル・レコードと契約する。このアルバムは、1953~54年に録音された『スイング・イージー』と『ソングス・フォー・ヤング・ラヴァーズ』をカップリングしたもの。シナトラの最高傑作と称されていて、歌にも自信が漲っている。シナトラを支えたアレンジャー、ネルソン・リドルとの初顔合わせでもある。

 

 

 終わる恋のデリケートな葛藤を歌った冒頭の「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス」から素晴らしい。終盤にグッバイ、グッバイと気持ちをこめて繰り返すところはドラマの1シーンみたい。未練を残しながら別れることを決めた男の哀感が滲み出ている。

 

 「オール・オブ・ミー」はシナトラの十八番。“どうして僕の全てを奪ってくれないんだ。君がいないとダメなのに。”という失恋ソング。たった2分の歌唱の中に、やるせなさを強烈に詰め込んでいく。もっともシナトラの場合、たとえ声を張り上げても、どこまでもダンディでスマートなんだけれど。

 

 

 おなじみの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の主人公は決して美女じゃない。でも“髪の毛1本変えずにそのままでいて”と恋人に言われるシアワセ者。シナトラはオーケストラをバックに、まるで目の前の彼女に語るように歌い上げていく。途中でワルツ・テンポを挟むのがオシャレ。

 

 

 今回のシリーズで登場する『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』についても触れておく。これは最愛のパートナーだった女優エヴァ・ガードナーとの関係が崩壊した時期に吹き込まれた傷心のバラード集。タイトル曲の「イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ」を初め、夜更けに切々と恋を歌うシナトラに多くの人が共感した。「エヴァがトーチ・ソング(注:片思いの歌)をどう歌えばいいか教えたんだろう。後になってリドルは言った。辛い方法でね。」(『ザ・ヴォイス フランク・シナトラの人生』ピート・ハミル著 馬場啓一訳 日之出出版より)。

 


 

【リリース情報】

フランク・シナトラ『スイング・イージー』

UCCO-6362

https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6362/

 

 

フランク・シナトラ『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』

UCCO-6372

https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6372/

 

 

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