2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が90万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」に新たにVOCAL編が50作品加わりました。その中から注目の5作品をピックアップし、ご紹介していきます。

 


 

 “ECONOMICS(経済学)”と書かれた分厚い本に片肘をついて、“RAH”と書かれたプラカードを持つサングラスの男。なんだか意味不明の怪しいジャケットだけど、強烈なインパクトを放ってくる。マーク・マーフィーの『ラー』は、ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』と同じく、ジャズの名門リヴァーサイド・レーベルから送り出されたヴォーカル・アルバム。

 

 世の中には「ヴォーカルはちょっと苦手」というジャズ・ファンもいらっしゃると思うが、そんな方にもぜひ聴いて頂きたい。センス抜群のヴォーカリーズ(インストルメンタル曲に歌詞を付けて歌うこと)にワクワクさせられると思うから。

 

 

 マーク・マーフィーは、才気煥発なヴォーカリスト。超絶テクニックを用いて、楽曲をドラマティックに盛り上げていく。1956年の初リーダー作を皮切りに、デッカとキャピトルに5枚の作品を残した後、彼に注目していたリヴァーサイドの総帥オリン・キープニュースのプロデュースで、本作『ラー』を制作した。

 

 集められたメンバーが凄い。クラーク・テリー、ブルー・ミッチェル、ウィントン・ケリーなど生粋のハッドバッパーが中心で、レーベル・メイトのビル・エヴァンスも2曲参加している。編曲を手掛けたのはカウント・ベイシー楽団で腕を奮ったアーニー・ウィルキンス。発売時、米国のジャズ専門誌ダウンビートのレヴューで「シナトラが羨望の気持ちで真っ青になるアレンジ」と評された。このアルバムを成功に導いた功労者の一人である。

 

 

 アルバムはLPにあたるA面がスタンダード、B面がジャズメンのオリジナルで構成されている。ここではマーフィーの真骨頂でもあるヴォーカリーズをフィーチャーした後半から数曲ピックアップしてみよう。

 

 「マイルストーンズ」は、モード手法を用いたマイルス・デイヴィスの代表的オリジナル。タイトルはマイルスの「音」と、一里塚(マイルストーン)を掛けたもの。緊張感のあるビートに乗って、マーフィーがスキャットを交えながら熱唱する。原曲同様、ハードボイルドでクールでカッコイイ。

 

 

 「ドゥードリン」は、“ファンキー・ジャズの伝道師”と呼ばれるピアニスト、ホレス・シルヴァーの有名曲。タイトルは“落書きをする”とか“ダラダラする”という意味を持つ単語。マーフィーはこのヒップなナンバーを寛いだ雰囲気で気持ちよさそうに歌っていく。作詞はヴォーカリーズの先駆者ジョン・ヘンドリックス。テーマだけでなくホレスのアドリブにも歌詞が付いていてニヤリとしてしまう。

 

 

 ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の名曲「マイ・フェイヴァリット・シングス」も人気が高い。前年ジョン・コルトレーンが衝撃的なカヴァー・ヴァージョンを発表してから、ジャズメンも多く取り上げる様になった。

 

 


 

【リリース情報】

マーク・マーフィー『ラー』

UCCO-5629

ラー【CD】【SHM-CD】 | マーク・マーフィー | UNIVERSAL MUSIC STORE (universal-music.co.jp)

 

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