2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。今秋新たなラインナップ100タイトルが登場するのに先駆けて、これまでに発売された全510タイトルの中から“いま”最も売れている20枚をピックアップし、個性豊かな執筆陣が紹介します。



文:松永良平

 「アンフォゲッタブル」や「スターダスト」と並び、ナット・キング・コールが歌った代表曲として知られる「クリスマス・ソング」。クリスマスのスタンダードとして広く親しまれているだけでなく、コール自身にとっても1965年に45歳で亡くなるまでの生涯で4回も吹き込んだこだわりの一曲だ。



 この名曲の作者はコールと同時代を生きたジャズ・シンガー、メル・トーメと、作曲家でテレビや映画のプロデューサー/脚本家としても活動したボブ・ウェルズ。45年に彼らが発表したこの曲をコールはいち早く翌46年に、自身の率いるトリオで初めて録音している(この年だけで2回録音された)。53年にはネルソン・リドルのオーケストラとコーラスをバックに3度目の録音を行った。



 そして、61年にはラルフ・カーマイケルのオーケストラをバックに4度目の録音。ステレオ版ではこれが初めての録音でもあった。その出来栄えがあまりに素晴らしかったため、60年のクリスマス・シーズンに別のタイトルで発売していたアルバム(『ザ・マジック・オブ・クリスマス』)を、63年に『クリスマス・ソング』と改題し、表題曲として61年版を加えて新装リリース。63年の暮れには全米クリスマス・チャート首位を記録し、60年代のアメリカでもっともヒットしたクリスマス・アルバムに認定されるまでに至った。



 「もみの木」、「きよしこの夜」など日本でもお馴染みのクリスマス・ソングも含まれているし、華やかなきらめきも感じるが、選曲はトラディショナル中心で全体のムードもとても静か。63年のクリスマス、アメリカはケネディ大統領暗殺に気落ちしたシーズンでもあった。コールの清らかな歌声は、傷ついた人々の心を癒す鎮魂歌のようにも響いたのかもしれない。

 なお、CD化にあたってはボーナス・トラックを5曲追加。愛娘ナタリー・コールが生前の父の歌声とデュエットしたヴァージョンの「クリスマス・ソング」も収められている。



【リリース情報】
ナット・キング・コール『クリスマス・ソング』

UCCU-5903
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