2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。今年4月には新たにBOSSA NOVA編30タイトル、6月にFUSION編30タイトルが加わりました。その中から注目の作品をそれぞれ5作品ずつピックアップし、ご紹介しております。

 


 

タンバ4『二人と海』

 CTIレコードといえばイージー・リスニングないしクロスオーヴァー/フュージョンのイメージが強い。同時代のフリージャズと一線を画したそれは創設者クリード・テイラーがモダンジャズ以降を見据えて確立したレーベル・カラーでもある。その意味ではしかし、レーベル設立年の1967年にリリースされたタンバ4のアルバム『二人と海』は例外的な作品だった。

 

 

 タンバ4は元々、ピアニストのルイス・エサを中心に、ベースのほかフルートやサックスを演奏するベベート・カスティーリョ、ドラマーでパーカッショニストのエルシオ・ミリートからなるタンバ・トリオとして、1960年代初頭にブラジル・リオデジャネイロで結成された。ジャズ・イディオムを扱うピアノ・トリオであり、3人によるヴォーカルを交えサンバやボサ・ノヴァにも根差した音楽性はボサ・ジャズとも呼ばれた。その後64年にミリートからルーベンス・オアーナにドラマーが交代すると、67年にギターとベース等を担うドリオ・フェレイラが加入。カルテット編成のタンバ4(タンバ・クアトロ)として同年に『二人と海』を発表、アメリカ・デビューを飾った。

 

 

 トリオ時代から録音作品ではオーバー・ダビングでカルテット編成の音像を生み出してきた彼らにしてみれば、クアトロはトリオから地続きの音楽だっただろう。クアトロならではの特徴としてメンバー以外に着目するならCTIから当時2枚の作品を出したことが指摘できる。だが『二人と海』はストリングスを導入したもう一枚のCTI作品『サンバ・ブリン』(1968年)と比しても例外的であり、一聴してわかるようにイージー・リスニングと呼ぶには高度な複雑性と実験性を湛えている。とりわけ収録楽曲中際立って長い2曲、すなわち冒頭の「丘(オ・モロ)」と最後の「コンソレーション(なぐさめ)」は、いずれもクラシック~現代音楽的な意匠を施しながら組曲のようにダイナミックに展開する楽曲で、クラシックとジャズの融合という点でサード・ストリームの流れを汲んだボサ・ノヴァの変種と言えばいいだろうか。実際、中心人物のルイス・エサは1950年代にウィーンへと留学し、フリードリヒ・グルダに師事していたのだった。『二人と海』には表題曲をはじめCTIらしい心地よさを聴かせる音源も収録されているのだが、クリード・テイラーのプロデュースに染まりきらないタンバ4としての芸術性が強く出ていることにやはり注目したい。というのもアントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲である「丘(オ・モロ)」も、バーデン・パウエル作曲の「コンソレーション(なぐさめ)」も、『二人と海』で聴けるアレンジの原型はCTI以前、タンバ・トリオ時代にナラ・レオンおよびエドゥ・ロボとの連名でリリースしたライヴ盤『5 Na Bossa』(1965年)ですでに披露していたからだ。ルディ・ヴァン・ゲルダーのマスタリングというCTIの特徴的な音響へのこだわりは、むしろレーベル・カラーからはみ出すタンバ4の独自性を一層クリアに強調しているとも言える。

 

 

 クラシックとジャズという意味では、CTIではヒューバート・ロウズの『春の祭典』(1971年)やデオダートの『ツァラトゥストラはかく語りき』(1972年)、ジム・ホールの『アランフェス協奏曲』(1975年) などのように、クラシック音楽をジャズ風にカヴァーするということもレーベルの一側面だった。しかし『二人と海』は構造的にクラシックとジャズさらにブラジル音楽を融合している点で全く意味合いが異なる。そしてそれを流行現象としてのクロスオーヴァー/フュージョンと並べるのではなく、1950年代のいわゆる前衛ジャズの系識から辿り直すのであれば、フリージャズとは別種の、しかし同じように探究的な1960年代後半のエクスペリメンタリズムを、ここに見出すこともできるのではないか。

 


 

【リリース情報】

タンバ4『二人と海』

UCCU-6282

https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6282

 

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