2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が90万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」に新たにVOCAL編が50作品加わりました。その中から注目の5作品ずつピックアップし、ご紹介していきます。
アニタ・オデイ『ピック・ユアセルフ・アップ』
1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの記録映画『真夏の夜のジャズ』で、初めて動くアニタ・オデイを観た時の衝撃は忘れられない。羽根が付いたつば広の帽子、同じく裾に羽根が付いた黒のワンピースと白い手袋。ヴィジュアルが掴み充分で、音楽も最強だった。彼女がドラムの音だけをバックに「スウィート・ジョージア・ブラウン」を歌い出すと、リゾート気分で寛いでいた聴衆がどんどん音楽に引き込まれていく。テンポ・チェンジごとに見せる仕草もチャーミング。これは映画のハイライトの一つで、アニタ伝説が誕生した名シーンだ。
アニタの魅力は、なんといっても気風の良さにある。歌に曖昧さが無い。ホーンライクなフレーズを次々と繰り出しながら、ジャズ道一本勝負という感じがカッコイイ。彼女は子供の頃に受けた扁桃腺手術の不手際で、声質が掠れてしまったのだけど、致命傷を天性のジャズ・フィーリングでカヴァーして、とてつもないスキャット・テクニックを磨いていった。その奔放な歌いっぷりは、どこを切っても“ジャズ”そのもの。そこに強く惹かれる。
アイコン・ナンバーでもある「スウィート・ジョージア・ブラウン」が収録されているのは『ピック・ユアセルフ・アップ』だ。ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの2年前のスタジオ録音で、編成は違うけれどアレンジはほぼ同じ。ヴォーカルに造詣が深いジャズ評論家として活躍した若き日の故大橋巨泉氏は、担当したこのアルバムのライナーノーツ/曲紹介で、“彼女の最高傑作であるばかりでなく、ジャズの歴史に残る偉大な作品”(『ジャズ・ヴォーカル名盤100(講談社α文庫)』に再録)と激賞している。他にもラテン・フレーヴァー溢れる「レッツ・フェイス・ザ・ミュージック・アンド・ダンス」や、ロマンティックなバラード「アラバマに星落ちて」など、魅力的なナンバーが並ぶ。バックを担うメンバーも芸達者が揃っており、随所で歌に寄り添うオブリガードや小粋なソロを聴かせている。
『真夏の夜のジャズ』では、もう1曲アップ・テンポの「ティー・フォー・トゥ」を披露していて、こちらも圧巻。バンドのメンバーに対し、嫣然と微笑みながらスキャット勝負を仕掛ける様にゾクゾクする。この曲は、やはり今シリーズで再発する『アニタ・オデイ・アット・ミスター・ケリーズ』で聴くことができるので、併せてお楽しみいただきたい。
【リリース情報】
アニタ・オデイ『ピック・ユアセルフ・アップ』
UCCU-6371
https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6371/
アニタ・オデイ『アット・ミスター・ケリーズ』
UCCU-6381
https://store.universal-music.co.jp/product/uccu6381/
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