キース・ジャレットのソロ・コンサートと言えば、世界的に大ヒットした『ケルン・コンサート』や大作『サンベア・コンサート』を思い浮かべる人が多いと思う。しかし、その起点となったのがこの『ソロ・コンサート』なのだ。

最初はLP3枚組ボックスとして1973年にリリースされ、その箱入りという量感も相まって世界中で大きな話題となった。1973年3月のスイス、ローザンヌと7月のドイツ、ブレーメンでのコンサートのライヴ録音をLP3枚に収録したものである。

 

 

今でこそキースの全編即興ソロ・ピアノ・コンサートは彼の代名詞みたいになっているが、当時の状況は全く違っていたので驚きというより、少し異次元の出来事の様に受けとられた。LP3枚組全編即興ソロ・ピアノ、それもライヴで発表したジャズ・ピアニストは皆無だった。

 

そもそも、いつ頃からこういうコンセプトがキース本人の中で生まれたのだろうか。全編ソロ・ピアノによる録音は既に1971年11月オスロのスタジオで行われ、1972年にキースのECMデビュー・アルバム『フェイシング・ユー』として世に出た。しかし、これはその場で即興演奏をするコンサートとは全く異なる。

 

 

どうやら1972年6月にドイツのハイデルベルクで行われたソロ・コンサートが最初らしい。その後同年10月にニューヨークでキース初のアメリカでのソロ・コンサートが行なわれ、米コロンビア・レコードが録音したらしいがお蔵入りしている。キースがインパルス・レーベルに移籍する時期と重なったのが原因らしい。

 

 

1973年に入ると、デューイ・レッドマン、チャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンとのクァルテットを結成し、ニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガードを中心に積極的な活動を開始する傍ら、3月からソロ・ピアノでヨーロッパ・ツアーを敢行する。

 

以前からソロ・ピアノを積極的に録音して来たECMのマンフレート・アイヒャーの理解と応援を得て、7月にも再びヨーロッパ・ツアーを行ない、その中からローザンヌとブレーメンをピックアップしたのが本作である。

 

当初のLP3枚組アルバムは、後にCD2枚組として再発売されたことにより、コンサートが中断されることなく1枚のディスクで楽しめる様になったのは大歓迎だ。大河の流れの様に絶え間なく続くキースの即興演奏をいつまでも聴いていたいのに途中で遮られることほど興醒めなことはない。

 

何しろ後のキース・ジャレット、ソロ・コンサートの原点ともなった演奏だけにコンサート全体の大きな流れや構成はひとつの頂点を極めた感がある。

ピアノの前に座って腕時計を外し、天から降りて来る啓示を静かに受けるが如く指が鍵盤の上を踊り出す。

 

この世のものとは思えない美しいメロディや、思わず体が動くようなリズムはどこから湧いて来るのか。しかもそれらが次から次へとキースの両手から生み出される。これが真の完全即興ソロ演奏なのだ。

 

1974年の初来日から2014年最後のソロ・ツアーまで40年に渡ってキース・ジャレットを聴いて来た日本のファンはその素晴らしさを一番わかっているのかも知れない。

 


 

【リリース情報】

キース・ジャレット AL『ソロ・コンサート』

2023年5月30日リリース

UHQ-CD:UCCE-9342/3 ¥3,960(税込)

https://store.universal-music.co.jp/product/ucce9382/

 

 

DISC 1

1. ブレーメン・コンサート〈パートI〉BREMEN, July 12, 1973 Part I

2. ブレーメン・コンサート〈パートII〉BREMEN, July 12, 1973 Part II

 

DISC 2

1. ローザンヌ・コンサートLAUSANNE, March 20, Part I/II

 

<パーソネル>

キース・ジャレット(p)

 

★DISC 1 : 1973年7月12日、ブレーメンにてライヴ録音

★DISC 2 : 1973年3月20日、ローザンヌにてライヴ録音