毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚をご紹介します。
Loren McMurray / The Moaninest Moan of Them All (Archeophone)
いきなりだが、2023年の自分がジャズ関連で得た最大の驚きについて書く。
ずばり、ローレン・マクマレイの2枚組CD『The Moaninest Moan of Them All』である。冷水をかけられたような気分になった。それはなぜか。
自分は生涯のかなりの時間をジャズ鑑賞に費やしてきた。ゆえに、「録音の存在するジャズメン」については、それなりに聴き、知り、覚えてきた実感がある。が、ローレン・マクマレイについては今の今まで存じあげていなかった。よって彼は私にとってまったくの新星だ。
この作品はローレンの没後100年にあわせて制作されたという。彼は1897年にカンザス・シティ近辺で生まれ、1922年に敗血症のためニューヨークで亡くなった。同世代の人物として私は、画家・作家の村山槐多(1896~1919)を思い浮かべる。キング・オリヴァーやルイ・アームストロングの初レコーディングは1923年、デューク・エリントンやビックス・バイダーベックの初レコーディングは1924年とされるが、それを知ることなく他界した演奏家の音源が、CD2枚分、50曲も現存していたとは。
なにしろジャズ最初期の記録ゆえ、「一定のコード進行に沿ってアドリブを繰り広げる」というパターンは遥か未来のもの、楽器編成もまちまちでアコーディオンが活躍したりもする。ドラム・セットはない。ローレンは主にアルト・サックスを演奏し、スラップ・タンギングと滑らかなロング・トーンをおりまぜながら数小節を駆け抜ける。コルネットやクラリネットが花形であったろう当時のジャズ界で、“ジャズ・サックスの父”コールマン・ホーキンス以前に、こうしたサックス奏者がいたのだ。マイクロフォンを使ったレコーディングが行われる前の、いわゆる“ラッパ録音”であるにもかかわらず、音質は信じがたいほど鮮明。2023年度グラミー賞の「Best Historical Album」ノミネート作品でもある。
海野雅威 / I Am, Because You Are (Verve)
では、2023年、最もよく聴いたジャズ・ニュー・レコーディングは何だったのかと考えてみると、間違いなくそのひとつに海野雅威トリオ『I Am, Because You Are』がある。前作『Get My Mojo Back』でも大変なメロディ・メイカーぶりを発揮していたとはいえ、今回はトリオ編成であり、豊かな楽想を持つナンバーの数々が海野自身のピアノ・タッチによって表現されていくさまは快感の一言に尽きる。なかでも、トラック9「レット・アス・ハヴ・ピース」とトラック10「アイ・アム、ビコーズ・ユー・アー」の連続収録には心が高まった。録音場所は米国ニュージャージー州のルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ、しかも音質がとてもさわやかだ。ルディ亡きあと、この伝説的なスタジオではモーリーン・シックラーがエンジニアに就いている。今のアコースティック・ジャズを、今の録り方で楽しませてくれる抜群の一作であると聴いた。
Isaiah Collier / Parallel Universe (Night Dreamer)
2021年にヴァン・ゲルダー・スタジオ録音によるアルバム『Cosmic Transitions』を発表したサックス奏者のアイゼイア・コリアーも、ここ数年、私の心を捉え続けているひとりだ。1998年生まれ、ヴィブラフォン奏者のジョエル・ロス同様“ブルーベック・インスティテュート”出身者。ジョン・コルトレーン、ジーン・アモンズ、サン・ラー、ロスコ―・ミッチェルらを敬愛し、これまでは主に“チョーズン・フュー”という4人組バンドを率いて壮大なフリー系ジャズを届けていたが、11月に登場した最新作『Parallel Universe』ではゴスペル系シンガーやブルース系ギタリストも交えた9人編成による一発録りで、より広い視野を感じさせつつ、だがしっかり粘っこいサウンドで魅了する。B'zを彷彿とさせる「Never Back Down」を繰り返し再生した。