4月23日からソロ・ピアノ・インプロヴィゼーション来日ツアーを行うフィンランドのピアニスト、サムリ・ミッコネンの来日直前インタビュー(前)をお届けします。

 

 

——どのようにしてピアノを習い、ピアノ教育を受けて育ったのか教えていただけますか?

 

当時私は3歳で、ピアノを見てすぐに弾き始めました。その後、ジャズでもクラシックでも、多くの素晴らしい先生に教育を受けるようになりましたが、最初は一人でピアノのそばで即興演奏する喜びに浸るだけでした。それはとても自然な出来事だったと思います。私はピアノを演奏することを意識的に決めたわけではなく、むしろピアノに引き寄せられ、そうしたいという強い衝動から演奏し始めました。

 

——もうすぐピアノ・ソロ・コンサートのために来日されますね。今、ソロ・プロジェクトをやろうと思ったのはなぜですか?

 

私を含め、多くのミュージシャンはコロナ禍の最中に深く反省する時期を過ごしました。演奏できないときは、自分がやっていることがどのような意味を持つのかをより深く考え始め、私たちの存在の本質をより深く見つめ、望むらくは人生全般で最も重要なもの、そして音楽というものをその一部として再発見できるようになります。

 

私にとって今ソロ・ピアノを演奏することは、これらの反省の結果です。私はコロナ禍の時期のほとんどをフィンランドの森の中の家で一人で過ごしましたが、このソーロー ( ヘンリー・デヴィッド・ソーロー - Thoreauesque)風の時代は、ある意味、私と世界との関係全体、そしてその一部としての音楽を再定義するきっかけとなりました。

 

ソロ・ピアノの即興演奏を、今やるのは正しいことだと感じています。何を演奏するか全く分からずにステージに入り、他のミュージシャンから創造的なエネルギーを得ることができない場合、唯一の選択肢は自分の中でそれを見つけることです。

 

 

——あなたにとって現在の課題は何ですか? そして、それらの課題にどのように取り組んでいますか?

 

もちろん、人生は課題に満ちています。私たちの周囲のあらゆる種類の事柄には注意が必要であり、自分の行動を再調整する必要があります。また、私たち全員も同様に内なる悪魔を抱えています。明らかに、地政学的な緊張も、ここ数十年では見られなかった形で私たちの生活に入り込んでおり、それが近い将来に対する私たちの見方を変えています。しかし、私たち自身の中にもたくさんの力があり、それを利用して補充することができ、最良の場合には他の人と共有することもできます。

 

——ECM のアルバム『KUÁRA - PSALMS AND FOLK SONGS』に収録されている各曲について説明/コメントをいただけますか?

 

『Kuára - Psalms and Folk Songs』の出発点は、私の親愛なる友人であり同僚であるドラマーのMarkku Ounaskari(マルク・オウナスカリ)とのフリー・インプロヴィゼーション・デュオでした。そこに、古代東方正教会の詩篇の曲とトランペット奏者兼歌手のPer Jørgensen(ペール・フォールへンセン)の驚くべき音楽性を取り入れるというプロデューサーのManfred Eicher(マンフレート・アイヒャー)のアイデアがあってこうなりました。

 

私たちはロシア国境内に住むフィン・ウゴール族の民謡といくつかの自由即興で曲を補完し、そこにManfredの洞察力を加えた結果は、間違いなく全体として聴ける、非常に一貫したアルバムとなりました。

 

自発性の要素は常にそこにあり、私たちは多くの場合、単なる参照点、探索のムードを立ち上げる出発点として曲を自由に使用します。

 

  1. Polychronion(ポリクロニオン = 東方正教会とビザンチン・カトリック教会の典礼で唱えられる厳粛な祝辞)

これは東方正教会の典礼聖歌の一部であり、そのルーツはビザンチウムにまで遡り、一部の人によると西暦 395 年に分裂する前のローマ帝国にまで遡ります。私は、Per が美しいトランペットでメロディーを始める前に、即興のイントロに内なる雷鳴、少なくとも光線を伴った暗雲の要素を取り入れようとしました。

  1. Psalm CXXI(詩篇 CXXI)

もう一つの東方正教会の曲は、ロシアのNovospassky(ノヴォスパスキー)修道院の聖歌隊の録音から書きとったもので、即興で演奏しています。

 

  1. Tuuin tuuin(トゥーイン トゥーイン)

これはフィンランドのカレリア地方の民謡で、子供が寝るときに歌うことを目的としていました。Manfredはこのメロディーを特に気に入っており、ルーノ歌 (カレリア神話のバルト・フィンランド人の間で歴史的に実践されてきた口承詩および国家叙事詩の形式) のメロディーによく似ています。

 

  1. Aallot(アーロット/波)

フリー・インプロヴィゼーション。後にフィンランド語で波を意味する”Aallot”と名付けました。

 

  1. Introit(イントロイト=イントロ)

Novospassky(ノヴォスパスキー)のレパートリーからもう一曲。

 

  1. Pitkä pajo(ピトゥカ・パヨ/長い髪)

これは、ロシアとの国境の向こうにあるLaatokka(ラートッカ)湖とÄäninen(アーニネン)湖の周りの地域、Vepsä(ヴェプサ)の民謡です。フィン-ウゴール族の中でも、Vepsä(ヴェプサ)族は、フィン-ウゴール人のブルースの一種である、多くの詩からなる哀悼の歌 ”itkuvirsi” (イトゥクヴィルシ)で有名です。

 

  1. Introit / Changing paths 1(イントロイト=イントロ / 進路変更 1)

バリエーションのテクニックで新たな領域を征服します。

 

  1. The Gipsy's Stone(ジプシーの石)

Porkkala(ポルカラ)半島に近いフィンランド湾には、海から突き出た石があり、Markkuはそれについて興味深い話をしました。これは完全な即興演奏です。

 

  1. Pikkumetsä(ピクメッツァ=小さな森)

これも 100% 即興の曲で、私が育ったフィンランドのJyväskylä(ユヴァスキュラ)の地域にある小さな森を思い出させました。エルフ(本来、自然と豊かさを司る小神族であった。しばしば、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉、井戸や地下などに住むとされる)、ドワーフ(神話に登場する由緒ある小人の妖精。 神話の中では、神々によって人型を与えられた小人族)、トロール(伝承に登場する妖精の一種。 通常は小人とされるが、まったく逆に巨人とされることもある )が見られる一種の森ですが、それでも小さな男の子が安全に遊べるくらい小さいです。

  1. Soldat keljangúr(ソルダット・ケリアングル)

少し東にあるフィン-ウゴール地域、ウドムルト地方の民謡。この曲では、遠い国で戦う兵士として送られることになった息子の徴兵を母親が嘆いているが、この物語は2024年の今でも不思議と近しく聞こえます。

 

  1. Mountain of Sorrow(悲しみの山)

この 100% 即興演奏曲は、私が弾き始めた非常に単純なインターバル的なアイデアから始まり、最終的にどこで終わるか全く分からずに演奏を始めました。

 

  1. Introit/ Changing paths 2(イントロイト=イントロ/進路変更 2)

私たちは Introit の限界をさらに広げ続けます。

 

  1. Sjuan Mad'(スュアン・マッド)

これも非常に自由に解釈されたウドムルト民謡です。

  1. Sjuan Gúr (スュアン・グル)

更にもうひとつ、ウドムルトからのもので、まるで長い夜のビジョンと夢の後の日の出のようです。

 

※次週後半に続く

 


 

【サムリ・ミッコネン来日ソロ・ツアー情報】

4月23日(火)  柏    Nardis   

4月24日(水)   代官山   晴れたら空に豆まいて          

4月25日(木)   横浜  Airegin   

4月26日(金)   金沢  もっきりや   

4月27日(土)   新潟  Jazz Flash 

4月28日(日)   富山  Newport

4月29日(月)   稲毛  Candy

 

すべて  19:00 開場  19:30 開演

すべて 前売  4,500円 当日 5,300 円  drink 別

▼詳細はこちら

https://invs.exblog.jp/30795668/

 


 

【作品情報】

KUÁRA『PSALMS AND FOLK SONGS』

https://open.spotify.com/intl-ja/album/7wQzmxNVq8eF2sTzpGm3vt?si=L0oE-pGrSquPDl2QExPnGQ