「ロバート・グラスパーは若い世代のジャズミュージシャン達のリーダーだ」

これは2018年の東京ジャズでハービー・ハンコックがロバート・グラスパーをサプライズ・ゲストとしてステージに迎えるときに言った言葉だ。

1978年アメリカのテキサス州ヒューストン生まれ、ゴスペルシンガーの母のもとで生まれ、幼いころから教会でピアノを弾き、時に母の伴奏をしていたロバートはジェイソン・モランやクリス・デイヴを輩出したヒューストンの地元の名門高校ハイスクール・フォー・パフォーミング・アンド・サ・ヴィジュアル・アーツへの進学。マイク・モレーノやウォルター・スミスⅢらと学び、キース・ジャレットやチック・コリア、オスカー・ピーターソンを研究しジャズの基礎を学び、その才能を一気に開花させる。

その後、NYへ移住し、ブラッド・メルドーを輩出した名門ニュースクール音楽院へ進学。同窓にキーヨン・ハロルド、ホセ・ジェイムス、ベッカ・スティーブンス、黒田卓也などがいた環境でジャズを中心に音楽を学び、すぐにシーンで頭角を現し始め、ケニー・ギャレットやテレンス・ブランチャードといったジャズシーンの重要人物らに起用される。幾度となくセロニアス・モンクをカヴァーするなどモンク狂でもあり、ハービー・ハンコックやマルグリュー・ミラー、ケニー・カークランドを敬愛し、アート・テイタムやブラッド・メルドーといった左右の手を自在に操るテクニシャンを愛し、フィニアス・ニューボーンJrやジャキ・バイアード、レニー・トリスターノを研究していたり、ジョー・サンプルやアーマッド・ジャマルの演奏はヒップホップのサンプリングソース文脈で解釈していたりと、実はジャズピアノの幅広いスタイルがインプットされているのが彼の強みなのだ。

また、学外では同学校の同級生で親友のR&Bシンガーのビラルと共にヒップホップやR&Bのセッションに顔を出し、ジャズ以外のシーンでもその存在が認められていく。NYだけでなく、当時勃興したネオソウルのムーブメントの中心地だったフィラデルフィアにも足を運び、ザ・ルーツのメンバーをはじめとしたヒップホップやR&B周りのミュージシャン達とも共演を重ね、そこからエリカ・バドゥやコモン、Qティップ、Jディラらと親交を深めた。

そうやってジャズとヒップホップ、R&Bを自在に行き来する若き日のロバート・グラスパーは、同じようにジャンルを横断していた先駆者でもあるロイ・ハーグローヴのバンドのツアーにも起用されていたのは必然だったのだろう。ロバート・グラスパーはそれまでのジャズミュージシャンの在り方を打ち破るようなスタイリッシュさを持っていたロイ・ハーグローヴがやっていたことをさらに推し進め、「ジャズミュージシャンが自分の専門外のヒップホップやR&Bも演奏する」のではなく、「ジャズもヒップホップもR&Bも自分の専門として並列に演奏した」ことでジャズミュージシャンと同時代のヒップホップやR&Bとの関係性を根本から変えてしまったとも言える。その上、フライング・ロータスやレディオヘッドを取り上げるなど、ビートミュージックやロックをも取り込み、その音楽性に境界はなく、どこまでも自由だ。そんなロバート・グラスパーの登場によって、ジャズ、もしくはジャズミュージシャンというもののあり方やイメージが一気に書き換えられたという意味で、彼はジャズに止まらずアメリカのブラックミュージックの世界をも変えてしまったとも言える。

そして、ロバート・グラスパーは自身の作品ではジャズとヒップホップやネオソウル、更にロックなども含めたあらゆるジャンルが完全に溶け合った独自のサウンドを生み出していく。Jディラの名曲をピアノトリオでDJミックスするように演奏した名曲「Jディラルード」を収録した2007年の『イン・マイ・エレメント』や、前半をアコースティックのピアノトリオ、後半をエレクトリックなカルテットでそのどちらでもジャズとヒップホップの要素が絡み合っていた2009年の『ダブル・ブックド』、ジャズミュージシャンによるオーヴァーダビングなしのエレクトリックな生演奏ヒップホップ・サウンドの上で、エリカ・バドゥやモス・デフ、コモン、ノラ・ジョーンズらが歌う名作2012年の『ブラック・レディオ』とその続編の『ブラック・レディオ2』などをリリースし、グラミー賞を2作連続で獲得している。2015年にはアコースティックなピアノトリオのイメージを刷新するような『Covered』、2016年にはマイルス・デイビスをテーマにした映画『マイルス・アヘッド』の音楽を担当し、自身の新作『アートサイエンス』では80年代マイルスやプリンス、LAヒップホップなどを想起させるサウンドを提示し、更にその音源をビートメイカーのケイトラナダにリミックスさせた『アートサイエンス・リミキシーズ』をリリースするなど独自の活動を続けている。

2017年にはブルーノート所属のトップミュージシャンによるブルーノート・オールスターズによるハイレベルなコンテンポラリージャズを奏でた『アワー・ポイント・オブ・ビュー』を、2018年にはテラス・マーティン、クリスチャン・スコットら、ハイブリッドな音楽性が身体化されている現代ジャズシーンのオールスターと共にR+R=NOWを結成し、『コラージカリー・スピーキング』をリリース。ジャズミュージシャンならではの即興演奏のスリルで魅せるプロジェクトを仕切っている。

ジャズ以外では、ケンドリック・ラマーが『To Pimp A Butterfly』で、コモンが『Black America Again』、マック・ミラーが『The Divine Feminine』で起用するなど、様々なところに顔を出し、2016年10月にはホワイト・ハウスで行われた当時のアメリカ大統領バラク・オバマ主催のイベントでコモンと共に演奏するなど、今や、名実ともにUSのジャズとヒップホップシーンを代表するミュージシャンとなり、その後、今やコモンとカリーム・リギンスとの3人でオーガスタ・グリーンを結成するなど、その存在感は増すばかりだ。

ジャンルも国も地域も超え、世界中にフォロワーを生んでいるグラスパーは名実ともに2010年代ジャズのアイコンなのだ。


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